第9章 影で動く者
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魔王城の最奥、薄暗い回廊。
人払いされた一室で、ひとりの影がゆらめいていた。
漆黒のローブに身を包んだ男――四天王の一人、オーガの参謀役にして密偵頭。
鋭い爪で机を叩きながら、口元に笑みを浮かべる。
「……面白い。あの若造、どうやら本物の力など持っていないな」
蝋燭の炎が揺れ、壁に不気味な影が踊る。
「だが兵どもは信じて疑わぬ。……ならば利用できる」
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扉の隙間から現れたのは、蝙蝠のような翼を持つ小さな魔族。
密偵の一人が膝をつく。
「報告いたします。人間軍、次の侵攻の準備を進めております」
「ふん、勇者どもも馬鹿ではないか」
グロウは鼻で笑った。
「だが好都合だ。奴らを“魔王の偉大な力”によって潰せば、魔族たちの信仰は絶対のものとなる」
爪の先で地図をなぞる。
赤い印がいくつも刻まれた戦略図。
「その後に……“真の王”を名乗るのは、この私だ」
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一方その頃。
僕は全くそんな陰謀など知らず、晩餐の席で苦手な料理と格闘していた。
「陛下、お口に合いませんか?」
リュミエールが心配そうにのぞき込む。
「いや、あの……このスープ、なんか動いてるんだけど……」
皿の中で触手のようなものがぷるぷる震えている。
「精がつきますよ」
にっこり笑うリュミエール。
(いや無理だから! ホラーじゃん!)
……僕がそんなことで胃を痛めている裏で、城の闇は確実に動いていた。
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夜更け。
グロウは塔の上から城下を見下ろし、低く呟いた。
「偽りの魔王か……だが、偽りこそ真実を覆う力となる」
その瞳には、冷たい野心の光が宿っていた。
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