第5章 揺らぐ同盟
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魔王城の戦議室。
長大な黒曜石の円卓を囲んで、幹部級の魔族たちが座していた。
壁に掛けられた魔法灯が淡く揺らぎ、重苦しい空気を照らし出す。
「勇者を受け入れるなど、前代未聞だ」
「奴が本当に味方する保証など、どこにある」
「人間は皆、裏切るものだ!」
怒号が飛び交い、円卓を叩く拳の音が響いた。
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その中心にいるのは僕――新たな魔王と呼ばれる存在。
そして、隣にはリオネルが静かに座っていた。
彼の肩には緊張が張りつめ、視線は決して逸らさない。
「……俺はここで戦うと誓った。疑うなら、この命で証明する」
短く放たれたその言葉に、場は一瞬だけ沈黙した。
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だが沈黙を破ったのは、鋭い声だった。
「証明? それで我らの血が無駄に流れるなら、最初から受け入れぬ方がいい!」
発言したのは古参の将軍、黒鉄の甲冑を纏う女魔族――ザルマ。
「人間の勇者を傍に置くなど、我らの誇りを踏みにじる行為だ。魔王よ、なぜそこまでして奴を庇う!」
突きつけられた問いに、円卓の視線が一斉に僕に集まった。
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「理由は単純だ」
僕は静かに告げる。
「この世界の敵は、人間か魔族かではなく――“争いを利用し続ける者”だ。リオネルは、その鎖から逃れた勇者だ。だからこそ、必要なんだ」
その言葉に、ザルマの眉が吊り上がる。
「理想論だ!」
激しい応酬の最中、扉が乱暴に開かれた。
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### 5
駆け込んできた伝令の魔族が、息を切らしながら告げる。
「報せです! 王国が……“新たな勇者”を立てたと……!」
会議室に衝撃が走る。
「新たな勇者だと……!?」
「リオネルに代わる存在を、もう用意していたのか!」
リオネルの拳が膝の上で強く握り締められた。
その横顔には怒りよりも、深い悔恨が刻まれていた。
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### 6(ラスト)
僕は静かに目を閉じ、心中で呟く。
――教会は、最初からこの策を練っていたのだ。
裏切りの勇者と、新たな勇者。
二つの光と影が、いずれ衝突する未来を避けられないことを、誰もが悟っていた。
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