第2章 王国の沈黙
### 1
人間の王都――白亜の城壁に囲まれたその街では、異様な静けさが漂っていた。
表向きは平穏だ。市場では商人が声を張り上げ、人々は日常を送っている。
だが裏では、ひそやかな噂が駆け巡っていた。
「勇者様が……消息を絶ったらしい」
「いや、魔王と共に姿を現したとか……」
「まさか、裏切ったのか?」
王国の重臣たちは真実を知りながらも、それを公にはしなかった。
---
### 2
王城の会議室。
長机を囲む重臣たちが沈痛な面持ちで集まっている。
「勇者が魔王と共闘したなど、民に知られてはならぬ」
「世論が混乱する。教会は既に嗅ぎつけているのだぞ」
「だからこそ隠蔽するのだ。勇者リオネルは……討伐の途上で殉死した、と」
重苦しい言葉が交わされる。
だが一人、若き騎士団長アルベルトが机を叩いた。
「ふざけるな! リオネル殿はそんな人ではない! 彼が裏切るはずがない!」
---
### 3
重臣たちは冷ややかに彼を見た。
「感情論は不要だ。事実、彼は魔王と行動を共にしている」
「それ以上を知る必要はない。我らに必要なのは――“勇者を失った王国”をどう立て直すか、だ」
その言葉に、アルベルトは歯噛みするしかなかった。
---
### 4
その頃、教会本部では――。
大聖堂の奥、燭台の明かりに照らされた壇上で、枢機卿が集う。
「勇者リオネルは堕ちた。ならば新たな勇者を立てるまでだ」
「候補者はすでに選定済み。神聖の儀を施せば、“第二の勇者”は誕生する」
「魔王を討ち、裏切りの勇者も同時に粛清する……それこそ神の望みだ」
その声は冷酷で、揺るぎない。
---
### 5
王国が沈黙を選び、教会が次の駒を動かそうとする中――。
人々の間では噂だけが膨らみ続けた。
「勇者は本当に死んだのか?」
「いや……裏切り者となったのだ」
その囁きは、やがて大きな波となって王国全土を覆い始めていた。
---
### 6(ラスト)
――そして。
遠く魔王城にて、その報せの断片を耳にしたリオネルは、ただ黙っていた。
拳を握り締め、血が滲むほどに。
その沈黙は、怒りか、悲しみか。
誰にも分からなかった。
---




