第9章 奈落の残滓
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地響きが広場を揺らした。
裂け目から溢れ出した黒い霧が、渦を巻きながら天へと昇っていく。
その中から、何かが這い出してきた。
「……これは……」
ゼノが剣を握り直す。
姿を現したのは、人の形をした影の塊だった。
だがその顔には、かつて奈落に飲まれた人々の呻きが重なり、幾重もの声が響いていた。
「たすけて……ころせ……われらは……」
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「奈落に囚われた魂……」
ミレイアが青ざめ、杖を構える。
「これが……残滓……!」
影は次々と形を変え、腕が刃となり、背からは歪んだ翼が生える。
瘴気の塊が弾けるたびに、廃墟の石畳が溶けていく。
「くそっ……!」
ゼノが飛び込み、剣で影の腕を受け止めた。
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### 3
僕も黒炎を展開し、霧を焼き払う。
だが、一体を焼き尽くしても、すぐに別の形で再生してしまう。
「完全に消しきれない……!」
焦燥が胸をかすめたとき、後方に目をやる。
リオネルが立ち尽くしていた。
聖剣を前にしながら、なお掴もうとしない。
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### 4
「リオネル!」
僕は叫ぶ。
「お前が剣を取らなければ、この影は止められない!」
彼は唇を噛み、震える声で返した。
「だが……俺は……勇者として戦う意味を……失った……」
「意味なんて後からでいい! いまは生きるために戦え!」
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### 5
影が咆哮を上げ、無数の腕を振り下ろす。
ゼノが押し込まれ、ミレイアが防御障壁を張るが、ひびが走る。
「ぐっ……耐えられない!」
「ミレイア!」
僕は黒炎で割り込むが、全てを防ぎきれるものではない。
このままでは押し潰される。
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### 6(ラスト)
そのとき。
リオネルが吼えた。
「やめろぉぉぉぉっ!」
聖剣を掴み、光を放つ。
その刃が影の腕を切り裂き、瘴気を吹き飛ばす。
彼の瞳には、再び光が宿っていた。
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