第8章 人間側の葛藤
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雨上がりの野営地。
勇者アレンは焚き火の前で剣を磨いていた。刃に映る自分の顔は、疲労と焦燥で険しい。
「……おかしい」
彼は小さく呟いた。
「どうしたの、アレン?」
僧侶の少女・セリアが薬草をすり潰しながら顔を上げる。
「魔王の力だ。報告にあった魔族とは次元が違う……あれは本当に人間を滅ぼす怪物なのか?」
「でも……!」
セリアの声が強張る。
「私たちの村は魔族に襲われたのよ。父さんも母さんも……」
その瞳に涙がにじむ。
アレンは言葉を失い、握る剣に力を込めた。
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弓使いのロイドが口を挟む。
「それにしても妙じゃねぇか。あの“雷”も、“召喚”も……どこか偶然に見えた。計算された力には感じなかった」
沈黙が落ちる。
確かに、魔王の行動はどこか不自然だった。
堂々と立ち尽くすだけで周囲が動き出す……。
「でも、偶然であんな力を操れるもの?」
セリアが反論する。
「偶然だろうが演出だろうが、被害は出てる」
ロイドは焚き火を見つめながら低く言った。
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### 3
魔導師のカナが小さく笑った。
「面白いじゃない。もし本当にハッタリなら……私たちが暴いてやればいい」
「カナ!」
セリアが眉をひそめる。
「だってそうでしょ。あれだけの軍勢が“魔王”を信じて動いてる。力が本物でなくても、信じさせるカリスマがあるってこと」
火の粉が舞い上がる。
その赤い光の中で、カナの瞳が妖しく光っていた。
「人間の敵は、力そのものじゃなく“信仰”かもしれないわね」
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アレンは深く息を吐いた。
剣を鞘に収め、仲間を見渡す。
「いずれにせよ……俺たちがやるべきことは変わらない。魔王を倒す。それが世界を救う唯一の道だ」
彼の言葉に、皆が黙って頷いた。
だが胸の奥には、それぞれ別の迷いが巣くっていた。
セリアは復讐心と慈悲の板挟みで。
ロイドは真実を見抜こうとする理性で。
カナは“敵のカリスマ”に興味を覚えて。
そしてアレン自身も――本当に剣を振るう理由を、見失いかけていた。
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夜が更ける。
風に揺れる焚き火の音だけが響く。
(……魔王。お前は一体何者なんだ?)
アレンは目を閉じ、心の中で問いかけた。
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