第9章 戦乱の兆し
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王都グランディアの軍議の間は、荒々しい声で満ちていた。
長机の上には地図が広げられ、そこに赤い駒が次々と置かれていく。
「第一軍は北方の要塞へ進軍! 魔族の防衛線を突破せよ!」
「第二軍は東の平原を制圧だ! 補給路を確保する!」
宰相の命令に将軍たちが次々と応じる。
勇者を失った王国は、悲嘆を怒りに変え、すべてを戦に注ぎ込もうとしていた。
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一方、魔族領。
砦に戻った僕は、仲間たちと共に作戦室にいた。
テーブルの上には急報が積まれている。
「……人間の動きが速すぎる」
僕は報告書を握りしめ、眉をひそめた。
「勇者を失った直後だぞ。普通なら混乱するはずなのに……」
「きっと宰相が仕掛けてるんです」
ミレイアが鋭い眼差しで言う。
「民衆の怒りを利用して、戦争を一気に加速させているんですよ」
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そこへ副官の魔将が駆け込んできた。
「報告! 王国軍が北方国境に十万の兵を集結させております!」
室内の空気が凍りついた。
十万――それは王国の総力戦に等しい規模だった。
「……もう、止められないのか」
思わず呟くと、仲間たちは重苦しい沈黙を返す。
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だが、沈んでいる時間はなかった。
「防衛線を整えろ。各砦に連絡を回せ」
僕は決断を下す。
「人間が来るなら……迎え撃つしかない」
その言葉に、皆が頷いた。
恐怖も、怒りも、悲嘆もある。
だが背を向けるわけにはいかない。
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### 5
夜。砦の上から見渡すと、遠くの地平線に焚き火の列が見えた。
無数の灯が、赤い帯のように夜を染め上げている。
それは王国軍の野営の火――迫り来る大軍の証だった。
風に乗って、太鼓と角笛の音がかすかに響いてくる。
大地そのものが震えているように感じられた。
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### 6(ラスト)
「……戦争が始まる」
思わず口にした言葉が、胸に重く沈んだ。
勇者を失った代償は、誰もが想像した以上に大きかった。
それは憎悪と狂気に燃える戦乱の炎――。
その炎が、ついに燃え広がろうとしていた。
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