第5章 城下町の魔族たち
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数日後。
「陛下、そろそろ城下をご覧になるべきかと」
ゼフィルスの提案で、僕は魔王城の城下町に足を運ぶことになった。
玉座や会議室とは違い、そこには日常があった。
石畳の大通り、並ぶ露店、笑い声。人間と変わらない……いや、少し違う。
パンを焼いているのは角を生やしたパン屋。魚を捌くのは鱗を持つ漁師。子どもたちは小さな翼をぱたぱたさせながら追いかけっこをしている。
(……え? 魔族って、もっと血に飢えた化け物だと思ってたのに……)
思わず立ち止まった僕を、ゼフィルスが見やった。
「どうなさいました、陛下?」
「いや……なんか、普通の街だなって」
ゼフィルスは少し笑った。
「当然です。我らも生きるために働き、子を育て、食べ、笑う。人間と同じですよ」
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通りすがりの老婆が僕に気づき、慌てて頭を下げた。
「も、もしかして陛下……!? お初にお目にかかります」
「えっ、あ、うん……」
思わず会釈すると、老婆は感極まったように涙ぐんだ。
「本当に……本当にお戻りくださったのですね。これで安心して子や孫を育てられます」
その言葉に、胸が締め付けられた。
(この人たちにとって“魔王”は希望なんだ……)
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市場を抜けると、街の外れで子どもたちが小さな墓石に花を供えているのを見た。
不思議に思って近づくと、ゼフィルスが低く言った。
「人間の討伐軍に焼かれた村の者たちです。……彼らにとって人間は仇」
墓前に立つ少女が僕を見上げた。
「魔王様……人間なんて、全部いなくなればいいのに」
あまりにまっすぐな憎しみに、言葉を失った。
少女の目は、僕と同じくらいの年齢の子が持つには重すぎる感情で染まっていた。
(……そっか。魔族にとって人間は“悪”なんだ。逆に、人間にとっては魔族が“悪”。互いに憎しみ合って、終わりがない)
胸の奥に、どうしようもない違和感が渦巻いた。
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城へ戻る道すがら、ゼフィルスが口を開いた。
「陛下は……人間をどう思われますか?」
「え?」
思わず足が止まる。
(僕、人間だし……って、絶対言えないよな)
少し考えてから、絞り出すように答えた。
「……まだよく分からない。でも、敵とか味方とかだけで決めちゃいけない気がする」
ゼフィルスは驚いたように目を瞬かせ、やがて微笑んだ。
「やはり、陛下は違いますね。……先代があなたを選んだ理由が、少し分かる気がします」
胸がチクリと痛んだ。
僕は“選ばれた”んじゃなくて、ただのバグでここに来ただけ。
それでも、彼らは信じて疑わない。
(……もう、本気でこの役を演じ切るしかないのかもしれない)
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