第12章 血の夜明け
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夜明け前の空は、まだ濃紺の闇に包まれていた。
その中で、王国と魔族双方の軍勢が密かに動き始めている。
血の契約が発効した今、いずれ大戦が勃発するのは避けられない。
だが僕は、別の道を選んだ。
――勇者を救い出す。
それこそが、鎖を断ち切る唯一の希望だった。
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密偵の報告によれば、勇者アレンは王都の地下聖堂に幽閉されている。
契約の錨として、命を削られるように呪術に縛られて。
「奴らは勇者を“人質”としか思っていない……」
僕は幹部たちを前に告げた。
「だが、俺は違う。アレンを救う。それがこの戦の始まりだ」
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老魔導師が頷き、黒き杖を掲げる。
「陛下の意志に従いましょう。我らは戦う。
鎖に縛られぬ未来のために」
兵士たちの咆哮が夜を震わせる。
恐怖を超え、希望へと変わったその声は、確かに軍を一つにしていた。
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### 4
夜明け直前。
僕は前線に立ち、王都を遠望した。
高い城壁、その奥にある聖堂の尖塔が、月光を浴びて冷たく輝いている。
(アレン……待っていろ。必ず、お前を鎖から解き放つ)
握った拳に、黒炎が静かに宿った。
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### 5
その時、風が吹き抜ける。
ふと、背後から声がした。
「本当に……俺を救うつもりか」
振り返れば、そこに立っていたのは――勇者アレン。
王国の拘束を抜け出したのか、それとも契約に導かれてか。
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### 6
彼の瞳は赤黒い光に蝕まれていた。
「契約が俺を縛る……意思に反しても、剣はお前を討とうとする……」
アレンの手には、すでに聖剣が握られていた。
だが、その刃は震え、彼の意思と呪術の狭間で揺れている。
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### 7
「ならば抗え。俺と共に!」
僕は叫び、黒炎を燃やした。
「呪いに負けるな! お前は王国の駒じゃない!」
アレンの瞳に、わずかに光が宿る。
それは、かつて湖畔で見た揺らぎと同じ――真実を求める光だった。
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### 8
夜明けが訪れる。
東の空が赤く染まり、最初の光が差し込む。
血の契約が脈動を強め、赤黒い鎖がアレンを縛ろうと襲いかかる。
僕はその鎖に飛び込み、黒炎で焼き払った。
苦痛が全身を走る。だが構わない。
「アレン……! 共に未来を掴むんだ!」
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### 9(ラスト)
聖剣が震え、そして――鎖を断ち切るように閃光を放った。
アレンの瞳から赤黒い光が消え、代わりに澄んだ青が戻っていく。
「……俺は……まだ……!」
彼は膝をつきながらも、必死に息を吐いた。
「鎖を……断ち切れる……!」
血の夜明けは、確かに始まった。
それは戦いの始まりであり、同時に解放への第一歩でもあった。
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