第10章 契約の罠
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再び使者セルヴァンが現れたのは、勇者との密会から三日後だった。
彼は恭しく一礼し、あの羊皮紙を広間の机に広げる。
「陛下、王国はすでに“血の契約”に署名いたしました。
残すは、魔王陛下と魔族の代表のみでございます」
その口調は穏やかだが、背後に潜むのは強烈な圧力だった。
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老魔導師が契約を覗き込み、蒼白な顔で呟く。
「……これは……」
「どうした」
問いかけると、彼は震える指で文字をなぞった。
「この契約……王国の署名は、“勇者アレン”の名のみ……!」
広間が凍りついた。
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### 3
幹部が声を荒げる。
「なに!? 王の名はどこだ!」
「貴族たちも……誰も署名していない……」
「では、これは……勇者一人を生贄に差し出しただけではないか!」
混乱と怒号の中、セルヴァンは薄く笑う。
「勇者様は王国そのもの。民の象徴としての署名なのです」
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### 4
だが、すぐに真実は見抜かれた。
「違う……!」
老魔導師が叫ぶ。
「この呪術契約は、署名者を“錨”とする仕組みだ!
つまり勇者の魂が縛られることで、魔族全体が拘束される!」
その言葉に、僕の背筋が凍る。
(王国は……勇者をも犠牲にして、俺たちを鎖につなごうとしている……!)
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### 5
幹部たちは憤り、剣を抜こうとする。
「ふざけるな! 勇者を利用するなど!」
「すぐにこの契約を破棄しろ!」
だがセルヴァンの態度は微動だにしない。
「拒むならば……勇者殿は既に名を記しておられる。
つまり、契約は発効済みなのです」
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### 6
雷鳴のような衝撃が広間を走った。
勇者は……もう、王国の手で鎖に繋がれている。
「……っ」
胸に熱い痛みが走る。
あの時、森で見た揺れる瞳。真実を求める彼の姿が脳裏に蘇る。
(アレン……お前まで、王国に囚われたのか)
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### 7(ラスト)
セルヴァンは一礼し、薄笑みを浮かべたまま告げる。
「さあ、陛下。次はあなたの番です」
赤黒い文字が脈打ち、血を求めて震えていた。
契約の罠は、すでに閉じ始めていた。
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