第8章 流れる血、燃える心
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裏切り者の兵士が処刑された翌日。
地下神殿の空気は重く淀んでいた。
廊下を歩くたびに、兵士たちの視線が互いを探り合う。
(疑心が……広がっている)
その実感が、僕の胸を締めつけた。
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昼下がり。
兵舎の中で、ついに怒号が響き渡った。
「お前も王国の犬なんだろう!」
「違う、俺は……!」
拳が飛び交い、椅子が砕け散る。
止めに入った仲間にすら刃が向けられ、あっという間に流血沙汰となった。
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### 3
駆け込んだ僕の目に映ったのは、床に倒れる兵士と、刃を握り震えるもう一人。
仲間同士が、殺し合おうとしていた。
「やめろ!」
叫びは虚しく響く。
憎悪に支配された瞳は、もはや言葉を受け入れなかった。
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### 4
その瞬間、体が勝手に動いていた。
両手をかざした僕の指先から、黒炎が噴き出す。
轟音と共に炎が床を走り、二人の間に立ちはだかった。
焦げた匂いと熱風に、場の全員が凍りついた。
「……これ以上、仲間の血を流すな」
低く絞り出した声に、自分でも驚くほどの威圧が滲んでいた。
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### 5
兵たちは震え、目を逸らす者もいた。
だが同時に、その瞳には畏怖と――わずかな信頼が浮かんでいた。
「俺は……魔族の王だ」
口にした言葉は、重く響いた。
「裏切り者は許さない。だが、仲間を守るためなら、この力を惜しみはしない」
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### 6
沈黙の後、一人の兵が膝をついた。
「……陛下」
その声に続き、次々と兵士たちが頭を垂れる。
燃える心臓の鼓動と共に、僕は悟った。
彼らは恐れている。だが同時に、頼ってもいる。
(逃げられない……俺はもう、“偽りの王”ではいられない)
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### 7(ラスト)
黒炎の余熱がまだ漂う兵舎で、僕は拳を握った。
流れる血が教えてくれたのは、ただ一つ。
――この力は、仲間を守るために振るう。
燃える心の奥に、静かな決意が芽生えていた。
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