第6章 揺れる誓い
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蝋燭の炎がゆらめく。
契約書の赤黒い文字が、アレンの瞳に焼き付くように映っていた。
(この血の契約に署名すれば……魔族は縛られる。だが、同時に俺も……)
喉奥で言葉が詰まる。
勇者としての責務と、一人の人間としての信念が、激しくぶつかり合っていた。
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### 2
机に置かれた羽ペンを取るアレンの手が震える。
周囲の視線が鋭く突き刺さった。
宰相リュシオンも魔導官も、彼の一挙手一投足を見逃さない。
「勇者殿。迷いは敵を利するのみだ」
宰相の声は氷のように冷たい。
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### 3
アレンは瞼を閉じ、森で交わした言葉を思い出す。
――『俺に証明してみせろ。言葉じゃなく、行動で』
魔王を名乗る青年の瞳。
その中に宿っていたのは、敵意ではなく揺るぎない意志だった。
(あいつは……本当に、人を滅ぼそうとしているのか?)
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### 4
羽ペンの先が羊皮紙に近づく。
その瞬間――指先に電流のような痛みが走った。
ペンに仕込まれていた魔術が、血を求めて脈打っている。
「……っ」
赤い雫が滲み、契約の文字が脈動するように光を放った。
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### 5
だが次の瞬間、アレンはペンを強く机に叩きつけた。
乾いた音が室内に響く。
「俺は……まだ納得していない!」
宰相の目が細く光る。
「どういう意味だ、勇者殿?」
「俺は、この目で確かめる。
本当に魔族が滅ぶべき存在なのか、それとも……!」
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### 6
重苦しい沈黙が落ちる。
アレンの決断に、周囲の空気が凍りついた。
宰相はしばし睨みつけていたが、やがて冷笑を漏らす。
「……よかろう。勇者殿の剣が迷いを晴らすことを祈ろう」
それは承認というより、監視の宣告だった。
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### 7(ラスト)
部屋を出たアレンは、夜の風に顔を上げた。
胸の奥で、言葉にできない熱が渦を巻いている。
(俺は……この手で確かめる。
魔族の真実を。そして、あいつの正体を)
勇者の誓いは揺らいでいたが、その揺らぎこそが新たな道を切り拓こうとしていた。
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