第4章 血塗られた契約
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数日後。
再び現れた王国の使者セルヴァンは、今度は重厚な箱を携えていた。
黒い蝋で封じられたその箱からは、ぞわりと肌を刺すような気配が漂っていた。
「これが、王国の誠意にございます」
セルヴァンの口元には、あの薄い笑み。
箱が開かれると、中から一枚の羊皮紙が取り出された。
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羊皮紙には、血のように赤黒い文字が浮かんでいた。
見慣れない古代語――だが直感で理解できた。
これは、ただの条約ではない。
「……呪術契約、か」
側にいた老魔導師が低く唸る。
「血で名を記せば、魂に刻まれる。破れば血が沸騰し、命を落とす」
幹部たちの顔色が一斉に変わった。
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### 3
セルヴァンは飄々と語る。
「互いに裏切らぬための“保障”にございます。
王国も血を捧げますゆえ、ご安心を」
しかし条文には一方的な要求が並んでいた。
領土の割譲、魔族の奴隷化、そして――勇者の監督権を王国が握ること。
つまり、この契約は勇者アレンまでも縛る仕掛けだった。
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### 4
幹部の一人が憤然と立ち上がる。
「ふざけるな! これでは我らの滅亡と同じだ!」
「今すぐこの場で首を落としてやる!」
剣が抜かれ、緊張が走る。
だがセルヴァンは怯むどころか、むしろ挑発するように目を細めた。
「拒むなら、王国は総力を挙げて討伐に動くでしょうな。勇者様も、従うしかありません」
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### 5
僕は羊皮紙を睨みつけた。
血の契約――これに署名すれば、魔族は二度と自由を得られない。
だが拒めば、全面戦争。
(選ばされている……どちらにせよ血が流れる)
その時、不意に胸に浮かんだのはアレンの姿だった。
あの契約は、彼の魂までも鎖で縛る。
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### 6
僕は低く告げた。
「……答えは今、出せない。条文を精査させろ」
セルヴァンはあっさりと頷いた。
「ええ、陛下。ご賢明な判断を」
羊皮紙を置いたまま、使者は背を向けて去っていった。
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### 7(ラスト)
残された広間に重苦しい沈黙が落ちる。
蝋燭の炎が羊皮紙の文字を揺らし、血のように赤黒く輝いていた。
(俺は……この鎖を受け入れるのか。それとも……)
決断の時は、確実に迫っていた。
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