第4章 魔王の養子という肩書き
### 1
人間の斥候を“ハッタリ”で撃退してしまった翌日。
僕は魔王城の会議室に呼び出された。
重厚な黒曜石の机。壁には先代魔王の肖像画。四天王たちがぐるりと僕を囲み、まるで裁判官みたいな雰囲気だ。
(うわ……この空気、絶対なんか重大な話だよね?)
「陛下。先代陛下の遺言を、今こそお伝えせねばなりません」
杖を持つ魔女――名をリュミエールと言った――が、静かに立ち上がった。
「遺言……?」
リュミエールは本を開く。その表紙には不気味な文字が刻まれている。
「《次代の魔王は、我が血を継がぬ者。異界より来たりし者こそ、魔族を導くにふさわしい》」
室内の空気が張り詰める。
(えっ……僕のこと、最初から予定されてたの!?)
---
### 2
ゼフィルスが一歩進み出る。
「つまり、陛下は先代魔王様が認めた“養子”ということになります」
「よ、養子!?」
僕の声が裏返った。
「そう。血の繋がりこそなくとも、魔王の魂を継ぐ者として選ばれたのです」
リュミエールの瞳は炎のように熱い。
「いやいや……僕ただの高校生で……」と言いかけたが、喉で言葉が止まった。
(やばい。ここで否定したら……“偽物”ってバレる)
全員の視線が突き刺さる。オーガは腕を組み、甲冑の騎士は沈黙したまま。逃げ場はなかった。
「……うむ。そういうことか」
無理やり低い声を作り、頷いた。
その瞬間。
「おおっ!」
「さすが陛下! やはり我らの指導者!」
四天王の表情が一斉に明るくなった。
(……助かった。危なかった……!)
---
### 3
会議の後、ゼフィルスが僕の傍に残った。
「陛下、ご負担をおかけしているのは承知しています。しかし……我らは本気で、あなたを信じております」
「……ゼフィルス」
彼の表情は冗談ひとつない。真剣そのものだ。
その目を見て、僕の胸にズキッとした痛みが走る。
(ああ……みんなは本気で僕を“魔王”だと思ってるんだな……)
(だけど実際は、ただの人間。全部嘘だ……)
罪悪感が心に広がっていく。
「……大丈夫。僕は……必ず、みんなを導く」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が口から出た。
ゼフィルスは深々と頭を下げる。
「はい、陛下」
彼の信頼に応えられるかどうかも分からない。
それでも――少しだけ、腹を括らなければならない気がしていた。
---




