第1章 戴冠の夜
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深い森の奥、隠された地下神殿。
燃え尽きた戦場から帰還した魔族たちは、そこで厳かな儀式を執り行っていた。
黒曜石の柱に囲まれた円形の広間。松明の炎が揺れ、赤と黒の影が壁を這う。
その中心に――僕は立たされていた。
「我らが王に、永遠の忠誠を」
低い詠唱のような声が響き、数十、数百の視線が突き刺さる。
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壇上にいた老魔導師が、重々しく金属製の冠を持ち上げた。
漆黒の王冠。竜の骨で縁取られ、血のように赤い宝玉が埋め込まれている。
「これより、魔族の新たなる主を戴冠する……」
僕は思わず一歩後ずさった。
偽物だ。僕は本物の魔王じゃない。
なのに、この冠を受ければ――本当に戻れなくなる。
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その迷いを、リィナが横から囁いた。
「逃げてもいい。でも、ここで拒めば、皆は絶望する」
彼女の瞳には、揺るぎない光があった。
「あなたは、もう“象徴”じゃない。生き残るための希望なのよ」
心臓が痛いほど鳴った。
だが――兵士たちの眼差しを前に、言葉を飲み込むしかなかった。
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### 4
王冠が、頭に置かれる。
冷たい金属の感触が、こめかみを締め付けた瞬間――広間が震えた。
「魔王よ!」
「新しき主よ!」
歓声と鬨の声が渦を巻き、天井にまで響き渡る。
その熱量に、喉が詰まりそうだった。
(俺は……本当に、魔王になってしまったんだ……)
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### 5
儀式が終わり、夜の宴が始まる。
肉と酒、歌声と炎。
だがその中心に座らされている僕は、杯を口にすることもできなかった。
遠く、群衆の向こうでアレンの顔が脳裏に浮かぶ。
彼は今も、自分を斬るべき存在だと思っているのだろうか。
それとも――今日の姿を見たなら、何を感じるだろうか。
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### 6(ラスト)
夜空に満月が昇った。
冠の重みは、もはや肉体だけでなく魂までも縛り付けている。
偽りで始まった物語が、現実に塗り替えられていく。
僕は、魔族の王として――初めての夜を迎えていた。
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