第12章 選ばれる未来
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火矢の嵐をくぐり抜け、辛うじて撤退に成功した魔族軍。
深い森の奥、仮設の拠点で、疲弊した兵士たちが肩を寄せ合っていた。
誰もが満身創痍でありながら――その目は僕に注がれている。
「魔王様のおかげで、生き延びられた……」
「俺たちは、まだ戦える……!」
彼らの声には感謝と、期待が入り混じっていた。
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### 2
僕は戸惑っていた。
あの場で声を張り上げたのは、ただ必死だったからだ。
それでも――兵士たちは確かに僕を“導く者”と見ている。
「俺は……魔王なんかじゃない。ただの……」
言いかけた言葉を、リィナが遮った。
「いいえ。あなたは今日、魔王であることを証明したのよ」
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### 3
その場にいた将軍格の魔族たちも、膝をついた。
「我らは、あなたを真なる主と認める」
「この地を導けるのは、あなたしかいない」
次々と膝を折り、頭を垂れる姿に、胸が締め付けられる。
偽りでしかない自分が――本物の象徴に祭り上げられていく。
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### 4
遠くからその様子を見ていたアレンは、唇を噛み締めていた。
「魔王……いや、彼は……」
かつて敵としてしか認識できなかった存在が、今や人々に希望を与えている。
そして自分は、祖国に捨て駒として扱われた。
(俺の戦う意味は……どこにある?)
勇者の心にも、深い亀裂が生まれていた。
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### 5
夜。
星空の下で、僕はひとり膝を抱えていた。
守れた命もあれば、失った命もある。
その重さが肩にのしかかり、眠ることもできない。
ふと、リィナが隣に腰を下ろした。
「あなたが苦しむのは当然。でも――」
彼女は柔らかく笑った。
「皆は、あなたを選んだの。もう逃げられない」
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### 6
胸の奥で何かが確かに鳴った。
恐怖でも、絶望でもない。
ただ、背負わざるを得ないものがあると、心が告げていた。
「……わかった。なら俺は――進む」
声は震えていたが、確かな決意を含んでいた。
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### 7(ラストシーン)
その夜、魔族たちは一斉に声を上げた。
「我らの魔王に、忠誠を!」
鬨の声が森を震わせる。
その中心で、僕はただ立ち尽くしていた。
偽りの王が――もはや偽りでは済まされなくなった瞬間。
こうして僕は、魔族の未来を背負う“魔王”として選ばれてしまったのだ。
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