第10章 裏切りの影
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戦場の喧騒の中、王国軍の後方では密かに命令が飛んでいた。
「勇者は魔王を引きつけている……今だ、火矢を放て!」
将軍ドルガンの顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。
「勇者が討たれようが構わん。魔王を倒す好機だ」
「し、しかし勇者様は――」
「黙れ! 駒は駒だ」
その冷酷な一言で、兵たちは矢を番えた。
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一方、最前線。
アレンと僕の剣と炎が交錯していた。
互いに息を荒げながらも、どちらも決定打を出せずにいる。
その時、空が赤く染まった。
「……火矢!?」
無数の炎が降り注ぎ、敵味方を問わず戦場を焼き尽くす。
悲鳴が上がり、両軍が混乱に包まれた。
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「な……!」
アレンが驚愕の声をあげた。
火矢の軌跡は、まるで彼と僕を同時に狙っているかのようだった。
後方で、将軍の怒号が響く。
「勇者もろとも焼き払え! 魔王を討つためならば構うな!」
その言葉がアレンの耳に届いた瞬間、胸を鋭い刃で抉られたような感覚が走った。
(俺を……囮に? 王国は……俺を見捨てるつもりなのか!?)
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矢の雨を前に、僕はとっさに黒炎を広げた。
自分を守るためではなく、周囲の兵士や――アレンを覆うように。
「……なぜ俺を、守る!?」
アレンが叫ぶ。
「お前を殺したいわけじゃない! 今はまだ……!」
僕の言葉は炎に掻き消された。
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燃え盛る戦場の中で、勇者の瞳に深い影が宿った。
自分が信じてきた国が、己を駒として切り捨てようとしている。
そして、敵であるはずの“魔王”が――命を救っている。
(俺は……いったい、誰のために戦っている?)
その迷いが、アレンの剣を鈍らせていった。
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後方では、将軍ドルガンがほくそ笑む。
「よいぞ……勇者が倒れれば、我らが英雄として名を挙げられる」
だがその笑みを、誰も祝福することはなかった。
兵士たちの胸にも、わずかな疑念が芽生え始めていたのだ。
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