第9章 勇者と魔王、再び
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戦場の喧噪が、遠のいていくように感じた。
血と炎の渦のただ中で、僕と勇者アレンは向かい合っていた。
剣を構える彼の姿は、戦場の中で唯一、静謐さを纏っているように見える。
その瞳には――決意と、揺らぎ。
(また……会ったな)
言葉にはならず、胸の奥でそう呟いた。
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「……魔王」
アレンが低く声を発した。
「俺は……お前を討たなければならない」
その声には震えがあった。
剣先は迷いなくこちらを向いているのに、瞳だけは問いかけていた。
「本当に……お前は敵なのか、と」
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僕は黒炎を纏った手を広げ、必死に言葉を絞り出す。
「俺は……人間を滅ぼす気はない。ただ、ここに生きる者たちを守りたいだけだ!」
「……!」
アレンの瞳が揺れる。
だが、その背後で王国軍の兵たちが叫ぶ。
「勇者様! 魔王を斬れ!」
「祖国のために!」
その声が、彼を縛り付けていた。
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### 4
次の瞬間、アレンが駆けた。
剣閃が閃き、僕の炎と衝突する。
轟音と衝撃が戦場に轟き、周囲の兵士たちが思わず後退した。
「……戦いたくはない!」
僕の叫びに、アレンも返す。
「俺だって……そうだ! だが、俺は勇者なんだ!」
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### 5
剣と炎が幾度も交錯する。
火花が舞い、互いの顔を照らすたび、憎しみではなく迷いが浮かぶ。
「もし……お前が本当に敵でないなら!」
アレンの叫びが剣に宿る。
「なぜ俺たちは戦わなきゃならないんだ!」
その問いに、答えられなかった。
僕も知りたい――なぜ世界は、俺たちを敵同士に仕立て上げるのか。
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### 6
斬撃と炎が激しくぶつかり合うたび、周囲の戦況も変わっていく。
兵士たちは「勇者と魔王の戦いだ!」と声を上げ、両軍の視線が集中した。
もはや、この一騎打ちが戦場の象徴となっていた。
勝てば希望、負ければ絶望――。
その重圧が、二人の肩にのしかかる。
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### 7
互いの刃が交差した瞬間、アレンが低く呟いた。
「……もし次に言葉を交わせる時が来るなら、剣ではなく……」
その続きを聞く前に、兵士の怒号と矢の雨が二人を引き裂いた。
戦場が、また混沌に飲み込んでいく。
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