第7章 戦火の前夜
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月明かりの下、魔王城跡の広場に焚き火が並べられていた。
兵たちは鎧を外し、火の周りで静かに座っている。
笑い声もなく、誰もが明日を思い、胸の奥で祈っていた。
僕もその一人として、焚き火を見つめていた。
赤い炎が揺れるたび、胸の奥の黒炎が呼応するように疼く。
(明日……俺は、この力を振るう。みんなを守るために)
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ゼフィルスが酒瓶を片手に近づいてきた。
「陛下。前夜に飲むのは武士の常だそうですよ」
彼は無理に笑顔を作っていた。
「ほら、一口」
「……ありがとな」
瓶を受け取り、喉を焼くような強い酒を流し込む。
その熱さが、少しだけ恐怖を和らげてくれる気がした。
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そこへラヴィアも腰を下ろす。
彼女は焚き火を見つめたまま、囁くように言った。
「私……ずっと怖かったの。もし陛下が本当に“偽物”なら、支えていいのかって」
僕は息を呑んだ。
けれど彼女は小さく首を振った。
「でも今は違う。偽物でも本物でも、私は……あなたについていく」
その言葉に、胸の奥で熱が膨らんだ。
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さらにバルドが現れた。
彼は豪快に笑いながらも、その瞳には影があった。
「いやはや、陛下。俺の命は明日の戦場で尽きるやもしれませんな」
「縁起でもないことを言うな」
「ははっ。だが、それが戦というもの。……ただ一つ、陛下に頼みます」
バルドは真剣な眼差しで僕を見据えた。
「たとえ俺が倒れても、この民を……この国を守ってください」
重みのある言葉に、僕は強く頷いた。
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やがて兵たちが口々に「必ず帰る」と誓い合い始めた。
剣を掲げる者。仲間の肩を叩き合う者。
その輪の中心で、僕も声を上げた。
「……必ず生きて帰る。誰一人欠けずに!」
その言葉に広場は震えた。
恐怖の夜は、希望の声に塗り替えられていった。
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### 6
深夜。
空を仰ぐと、無数の星々が瞬いていた。
遠く地平線には、王国軍の松明が赤々と並び、静かに迫っている。
戦いは明日。
だが、その運命はすでに決していた。
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