第6章 迫る大軍
### 1 人間王国側
王都グランディアの軍港には、鉄と革の匂いが充満していた。
鍛冶師たちは徹夜で剣を鍛え、鎧に最後の仕上げを施す。
馬は嘶き、戦鼓が低く鳴り響く。
兵士たちは声を張り上げ、行軍の準備を整えていた。
「魔王を討つぞ!」
「勇者アレンに続け!」
その熱狂の中心に、アレンは立っていた。
だが、胸の奥に広がるのは熱ではなく、重苦しい影。
(この軍勢が進めば……本当に、魔族を滅ぼすことになる)
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### 2 魔族側
一方、崩れた魔王城の広場では、黒煙が空に溶けていった。
仮の陣幕の下で、僕――“魔王”は四天王や近衛たちと向き合っていた。
「王国軍が、大規模に動き出しました」
ゼフィルスが険しい表情で報告する。
「兵の数はおそらく五万……過去最大規模です」
周囲にざわめきが広がった。
五万――。
それはこの大陸で、一つの国を潰すのに十分な数だった。
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### 3
「……避けられない、か」
僕は低く呟いた。
ラヴィアが悲痛な顔で問いかける。
「どうするの? 私たちには戦う力はあっても、民を守りきれるかどうか……」
沈黙が重く垂れ込める。
戦えば犠牲は出る。逃げれば民は捨てることになる。
(俺は……“偽物の魔王”のはずなのに、こんな選択を迫られるのか?)
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### 4 勇者サイド
その頃、アレンは天幕の中で地図を睨んでいた。
参謀たちが声を上げる。
「魔族領の城砦を一つずつ潰し、補給を断つべきですな」
「勇者殿には先陣を」
アレンは唇を噛み、拳を握った。
「……戦う前に、話し合う道はないのか」
参謀たちは一斉に鼻で笑う。
「魔族に慈悲を? 勇者殿、それは甘すぎる」
その冷笑の中で、アレンの心はさらに揺らいでいった。
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### 5 魔族サイド
夜。
広場に集まった民たちの前に立ち、僕は言葉を探していた。
恐怖に震える者。剣を取る決意をした者。子供を抱きしめる母親。
そのすべての視線が、僕に突き刺さる。
「……俺は、偽物かもしれない。けれど、逃げるつもりはない。
この地を踏みにじろうとする者がいるなら……俺は、立ち向かう」
その瞬間、民のざわめきがわずかに収まった。
揺れる炎の中で、彼らの瞳に希望の色が戻っていった。
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### 6
夜空を裂いて、遠くの地平線に光が瞬いた。
それは王国軍の進軍に伴う松明の群れだった。
五万の炎が、波のように迫ってくる。
戦は――避けられない。
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