第3章 四天王の刃
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広場の中央。
崩れた魔王城を背に、僕とバルドは向かい合った。
群衆は円を描くように後退し、誰もが固唾を呑んで見守っている。
ゼフィルスが必死に声を上げた。
「やめろ! 今は仲間割れをしている場合じゃない!」
だがバルドは応えない。
ただ、巨剣を構え、揺るぎない眼差しで僕を射抜いていた。
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重い空気を裂くように、巨剣が振り下ろされる。
その一撃は大地を割り、石畳を粉砕した。
「っ……!」
反射的に身を翻し、僕は黒炎を纏った手で衝撃を弾く。
爆ぜる火花と轟音。
群衆が恐怖に叫ぶ声が広がった。
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「見せてもらいましょう! 陛下が真の魔王か否かを!」
バルドの叫びと共に、連撃が襲いかかる。
巨剣の重みを受け止めるたびに、腕が痺れる。
押し返そうと力を込めると――胸の奥で黒炎が再び暴れだした。
(……やばい、抑えが効かない!)
熱が体を蝕み、視界が赤黒く染まっていく。
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「陛下!」
ラヴィアの声が遠くに聞こえる。
次の瞬間――黒炎が暴発した。
僕の腕から奔った炎が大地を焼き裂き、周囲に火柱を生み出す。
兵士たちが悲鳴を上げて後退し、群衆は恐慌状態に陥った。
「な……!?」
バルドですら目を見開き、思わず足を止めた。
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炎の中で、僕は震えていた。
「違う……俺は、こんな力を望んでない……!」
けれど炎は意思を持つかのように広がり、僕の足元さえ呑み込もうとする。
制御できない。
このままでは、民衆を焼き尽くしてしまう――!
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その時、ゼフィルスが割って入った。
「陛下! この力は恐れるものではない! あなたの意思があれば、必ず従う!」
ラヴィアも必死に結界を展開し、炎を抑え込む。
「あなたは偽物なんかじゃない! ここにいる私たちの王よ!」
彼らの声が、炎の轟きの中でかすかに届いた。
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僕は深く息を吸い、胸の奥に問いかける。
(……俺は、何者なんだ? 本当に魔王なのか? それとも――)
答えは出ない。
けれど、守りたいものは確かにここにある。
「……従え!」
叫んだ瞬間、黒炎が一瞬だけ収束し、僕の腕に宿った。
暴走ではなく、意志の炎として。
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バルドが低く笑った。
「……ふむ。どうやら“偽り”だけではないらしい」
巨剣を肩に担ぎ直し、彼は背を向ける。
「証明は、ひとまず十分。だが……次は本気で試させてもらいますぞ、陛下」
そう言い残し、彼は群衆を押し分けて去っていった。
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残された広場は、まだ恐怖と混乱の中にあった。
人々の視線は、崩れた城と黒炎を纏う僕の姿を往復している。
信じる者と、疑う者。
その分断は、もはや明白だった。
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