第2章 疑念の火種
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地下通路を抜けた僕たちは、崩れ落ちた魔王城の外に出た。
黒煙が立ち昇り、空を覆っている。
群衆はまだ動揺の最中にあり、兵たちが必死に統制を取ろうとしていた。
「陛下、ご無事ですか!」
駆け寄ってきた兵士の瞳に浮かぶのは、安堵と不安の入り混じった色だった。
その視線を背後から鋭く貫いたのは――四天王の一人、**バルド**。
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黒鉄の鎧に身を包み、巨躯を揺らすバルドは、威圧そのものだった。
彼は僕に近づき、低く唸るように言い放つ。
「陛下……勇者との戦い、見させてもらいましたぞ」
その声には、敬意よりも疑念が込められていた。
「本当に、あなたは“魔王”なのですか?」
その場の空気が凍りついた。
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ゼフィルスが一歩踏み出し、剣に手をかける。
「バルド、無礼だぞ!」
だがバルドは睨み返し、一歩も退かない。
「無礼を承知で申し上げる。
――あの黒炎、確かに魔王の力に似ていた。だが、同時に“異質”でもあった」
民衆の中からざわめきが広がる。
「偽物なのか……?」
「勇者が本物なのか?」
疑念が火のように燃え広がっていった。
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僕は必死に声を張る。
「俺は……魔王だ! 偽物かどうかなんて関係ない! 俺が玉座に座り、民を守っている、それが事実だ!」
その言葉に、兵の一部はうなずいた。
だがバルドはなおも視線を逸らさない。
「言葉で玉座を守れるものか……。力で証明していただきたい」
その宣告は、まるで決闘の申し込みのようだった。
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ゼフィルスとラヴィアが同時に叫ぶ。
「陛下に刃を向けるつもりか!」
「今はそんな時じゃない!」
だがバルドは動じない。
「民は見ているのです。勇者に押され、玉座を崩された陛下を。
……今こそ示す時。偽りか、真か」
重苦しい沈黙が群衆を支配する。
疑念は火種となり、いつ爆ぜてもおかしくない。
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僕は唇を噛んだ。
勇者と戦った直後の傷はまだ疼いている。
それでも、逃げればすべてを失う。
「……分かった。証明してやる」
自分でも驚くほど、声は震えていなかった。
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### 7
バルドの瞳に、わずかな笑みが浮かぶ。
「よろしい。ならば、この戦場で」
巨躯が歩み出るたび、大地が揺れるように感じた。
群衆が息を呑み、広場に張り詰めた空気が漂う。
こうして――
偽りの魔王と、四天王の一角との戦いが避けられぬものとなった。
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