第1章 崩れ落ちる玉座
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黒い炎と聖なる光がぶつかり合った瞬間――玉座の間全体が軋みを上げた。
石造りの柱が砕け、天井に大きな亀裂が走る。
「危ない! 陛下!」
ゼフィルスが僕の腕を引き、崩れ落ちる瓦礫の下から身をかばう。
土煙が立ち込め、視界はほとんど奪われていた。
ただ、勇者アレンの瞳だけが光の中に浮かび上がっていた。
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「これ以上は危険だ! 一時退くぞ!」
ラヴィアが叫び、結界を張りながら僕たちを守る。
アレンは剣を振りかざし、なおも前に進もうとするが――大広間そのものが悲鳴を上げるように揺れ、瓦礫が彼の前を塞いだ。
「……っ」
アレンは立ち止まり、剣を握りしめたまま僕を見つめる。
その瞳に宿るのは、憎しみでも嘲りでもない。
ただ――強い疑問と、決意。
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煙の向こうから声が響いた。
「魔王……次に会うとき、お前を必ず討つ!」
断ち切るような宣告。
そして、視界は崩落で完全に遮られた。
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「陛下、こちらです!」
ゼフィルスが道を切り開き、僕たちは辛うじて玉座の間を抜け出した。
背後で轟音が鳴り響く。
かつて栄華を誇った玉座は、今や瓦礫に埋もれ、もはや戻れぬ過去となった。
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地下通路を進みながら、僕は肩を押さえた。
勇者の剣が掠めた傷はまだ熱を帯び、体内を黒い炎が駆け巡っているようだった。
「……これは、本当に俺の力なのか」
自分でも信じられなかった。
ただの人間にすぎなかったはずの僕が、どうしてあんな……。
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ラヴィアが険しい顔で言う。
「陛下……今の力は、魔王しか扱えぬはずのものです。いったい、あなたは……」
言葉が途中で途切れる。
ゼフィルスもまた、僕を見つめる視線に複雑な色を宿していた。
仲間ですら、僕を信じきれなくなりつつある――その現実に胸が痛んだ。
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だが足を止めてはいけない。
人間の勇者が現れ、玉座が崩れ落ちた今、魔族の国は分裂の危機に瀕していた。
背後から怒号が聞こえる。
「魔王は偽物だ!」
「勇者こそ真の王だ!」
「いや、陛下を信じろ!」
地下通路を抜けた僕の耳に届いたのは、民衆の分断の叫びだった。
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### 8
空を仰ぐと、黒煙が渦を巻いていた。
かつて「玉座」と呼ばれた象徴は崩れ去り、そこに残ったのは――偽りの魔王としての僕だけ。
けれど、退くわけにはいかなかった。
勇者の眼差しに映った疑念と決意が、今も胸を灼いて離れない。
「……逃げるのは、もう終わりだ」
瓦礫に覆われた城を背に、僕は拳を握りしめた。
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