第12章 開戦の刃
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剣が振り下ろされる。
アレンの動きは速く、迷いが一片もなかった。
刃の煌めきが視界を裂き、息を呑む間もなく迫る。
僕は反射的に身を翻し、辛うじてかわす。
床石に亀裂が走り、土煙が舞い上がった。
「……やるしかないのか」
声が震える。だが足は逃げなかった。
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ゼフィルスが咆哮を上げて剣を抜き、ラヴィアが詠唱を始める。
だがアレンは彼らを視界にも入れない。
ただまっすぐ、僕だけを見据えていた。
「魔王……! 俺はお前を討つ!」
「アレン、待て! 俺は――!」
叫んでも、剣が答えるばかりだった。
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激しい斬撃が連続して襲いかかる。
受け止めれば腕が痺れ、かわしても風圧に押し流される。
勇者という存在は、常人の枠を超えていた。
――勝てるはずがない。
心の底からそう思った。
それでも退けない。退いた瞬間、民衆は歓喜し、僕は「偽りの魔王」として処刑されるだろう。
それだけは許せなかった。
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### 4
「ぐっ……!」
剣が肩を掠め、鮮血が飛び散る。
視界が揺らぐ。
そのとき――。
胸の奥で、黒い炎のようなものが揺らめいた。
(……これは?)
全身に熱が走り、視界が赤黒く染まっていく。
まるで何かが目覚めるように、力が溢れ出した。
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### 5
次の瞬間、僕の腕から黒い光が奔った。
剣を受け止めたはずの手が、勇者の刃を弾き返す。
衝撃で広間の柱が崩れ、群衆が悲鳴を上げた。
「な……!? これが……魔王の力……!」
アレンの瞳が大きく見開かれる。
僕自身も驚愕していた。
こんな力、僕は知らない。持っているはずがない。
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### 6
「はぁ……はぁ……!」
荒い呼吸の中で、僕はアレンに向かって叫んだ。
「俺は本物じゃない……! だけど、目の前の命を守るためなら――この力だって使う!」
黒い炎が周囲を包み、床石を焦がしていく。
民衆は恐怖に叫び、兵士たちでさえ後ずさった。
ゼフィルスとラヴィアだけが、必死に僕の背を支えていた。
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### 7
アレンは剣を構え直す。
だが、その目に映るのは迷い。
「……お前は、何者だ」
答えられなかった。
自分でも分からない。
ただひとつ確かなのは――この戦いが、もう引き返せない道を拓いてしまったということ。
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### 8
黒い炎と聖なる光がぶつかり合う。
轟音が大広間を揺らし、群衆の悲鳴がこだまする。
その瞬間、誰もが悟った。
偽りであろうと、本物であろうと――
“魔王”と“勇者”の戦いが、ここから始まったのだと。
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