第2章 魔族たちの忠誠
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魔王と呼ばれてしまった僕の前に、ひときわ強烈な存在感を放つ四人が進み出た。
ひとりは巨大な斧を肩に担ぐ、三メートルを超える巨漢のオーガ。
ひとりは全身を黒い甲冑で覆い、目の奥が紅く光る騎士。
ひとりは長い杖を持ち、白髪を揺らす魔女。
そして最後のひとりは、背中から漆黒の翼を広げた美青年。
「我ら四天王、ここに!」
四人が一斉に片膝をつき、僕に忠誠を示す。
(し、四天王!? ゲームや漫画でしか聞いたことないんだけど!)
「お戻りになったこと、心よりお慶び申し上げます」
翼を持つ青年が恭しく頭を下げる。
「我らは魔王様の命を受け、いつでも戦いの準備が整っております」
「え、えっと……」
声が裏返りそうになるのを、必死に抑える。
(やばい……完全に後戻りできない空気じゃん!)
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魔女が口を開いた。
「陛下、ご安心を。ご不在の間も、城は無事に守られております。人間どもは依然として侵攻を続けておりますが……我ら四天王がいれば、容易く退けましょう」
「そうそう、奴らなんて一振りで木っ端微塵だぜ!」
オーガが豪快に笑い、巨大な斧を床に叩きつけた。ゴン、と響く音に僕の心臓が跳ねる。
騎士が低く唸るように言葉を紡いだ。
「……しかし、油断は禁物。勇者が現れるのも時間の問題。殲滅には、陛下の御力が必要不可欠」
全員の視線が、じっと僕に注がれる。
(や、やめろ! そんな期待の目で見るな!!)
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僕は必死に頭を働かせた。
とにかく「それっぽいこと」を言って、この場を切り抜けなければ。
「……うむ。人間どもを滅ぼす、その時は近い」
なるべく低く、威厳を込めた声を出す。
すると四天王たちは一斉に顔を上げ、恍惚としたような表情を浮かべた。
「さすが陛下!」
「その一言で我らの士気は天を突きます!」
(……まじで? これで信じちゃうの!?)
僕のハッタリは、どうやら想像以上の効果を発揮しているらしい。
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会議が解散となり、魔族たちは広間から退出していった。
最後に残ったのは、翼の青年――四天王のひとり、彼が静かに近づいてきた。
「陛下。……改めて、我が名はゼフィルス。空軍を統べる者。以後は常にお傍に控え、陛下をお守りいたします」
跪くゼフィルスの目は真剣そのものだった。
「え、あ、うん。よろしく……」
返事をすると、ゼフィルスはうっすらと笑みを浮かべる。
その笑顔がやけに眩しくて、僕はますます逃げ場を失った気がした。
(……もう完全に、魔王として生きるしかなくなってきてるじゃん)
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