第4章 揺らぐ魔王城
### 1
勝利の宴から数日。
魔王城の空気は一見平穏に見えたが、奥底では不穏なざわめきが渦を巻いていた。
「……聞いたか? 陛下は戦場で、一度も剣を抜かなかったらしい」
「だがあの天を裂いた光は……」
「いや、あれは側近が仕込んだ儀式の力ではないか?」
廊下の陰で交わされる兵士たちの囁き。
それは小さな火種に過ぎなかったが、日ごとに広がりを増していった。
---
### 2
僕はその噂を耳にして、寝台で膝を抱えていた。
(やっぱり……バレ始めてる……?)
額から汗がにじむ。
ハッタリだけでは、いつか限界が来る。
それは分かっていたけれど、いざ現実になると、背筋が冷たくなった。
---
### 3
その時、部屋をノックする音がした。
入ってきたのはゼフィルス。真剣な顔つきだった。
「陛下。……ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
心臓が跳ねる。
ゼフィルスはしばらく言葉を選ぶように黙り、やがて口を開いた。
「先の戦で、陛下は……本当に力を使われたのですか?」
――直球だった。
僕は一瞬言葉を失い、口の中がからからになる。
---
### 4
「……陛下を疑うつもりはありません。ただ……兵たちの間に、不安が広がっているのです」
ゼフィルスの声は冷たくはなかった。けれど、その瞳は鋭く真実を求めていた。
(どうする……? 本当のことを言えば、全部崩れる。でも……嘘を重ねれば……)
胸が締め付けられる。
「……ゼフィルス。お前は、俺を信じてくれるか?」
かすれた声で問い返す。
彼はしばらく黙り込み、やがて深く頭を下げた。
「……命を懸けて、お守りします。それが私の誓いです」
それは答えのようでいて、答えではなかった。
---
### 5
一方その頃。
グロウは暗い書斎で密偵から報告を受けていた。
「兵士たちの間に疑念が広まっております。……まさに、参謀様のお考え通りに」
グロウは不気味に笑った。
「よい。疑いはやがて確信となる。――その時、“偽りの王”は自ら玉座から滑り落ちるだろう」
窓の外には月が浮かんでいた。
その光は、静かに嵐の到来を告げていた。
---




