第3章 蠢く人間の王国
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人間の王都――白大理石の城壁に囲まれた巨大な宮殿。
夜の帳が降りると、豪奢な謁見の間では静かに会議が進んでいた。
長い机の奥に座るのは、王国の支配者アルヴェイン王。
銀髪に王冠を戴き、鋭い眼差しを持つその男は、冷ややかに臣下たちを見渡していた。
「――勇者アレンは、未だ迷いを抱いていると聞く」
その言葉に、集まった大臣や将軍たちがざわめいた。
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王は指を軽く鳴らした。
すぐに近衛が進み出て、分厚い書簡を机に置く。
「魔族討伐は、我が王国の威信をかけた事業だ。勇者が迷いに足を取られることは許されぬ」
低く響く声。
それは一国の王の威厳というより、冷徹な策士の響きだった。
「陛下……しかし勇者殿を欠けば、軍の士気にも――」
老臣が言いかけた瞬間、王は目を細めて言葉を遮った。
「勇者とは、国が作り出した“象徴”に過ぎぬ。もし駒として役立たぬなら……取り替えるだけだ」
凍りつくような沈黙が広間を覆った。
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王は続ける。
「真の敵は魔族ではない。――混乱を恐れ、民を縛る“希望”そのものだ。
魔族を滅ぼすことで民は我を崇め、国はさらに肥大する」
臣下たちはうつむき、誰一人反論できなかった。
(陛下に逆らえば……自分の命がない)
その恐怖が空気に満ちていた。
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会議が終わった後。
王はひとり玉座に残り、夜空を見上げて呟いた。
「偽りの魔王か……ふむ。ならばこちらも“偽りの勇者”を作るまで」
その瞳は氷のように冷たく、欲望の炎だけがぎらついていた。
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一方その頃、城の外れの路地。
ひとりの密偵が闇に紛れていた。
「……王国の思惑、魔王側に伝えるべきか……」
その正体はまだ明かされない。
だが確実に、人間と魔族の裏を結ぶ“影”が動き始めていた。
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