第10章 裏切りの鐘
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### 1
王都の深夜。
遠くの大聖堂から、不気味な鐘の音が鳴り響いた。
本来なら祝祭や祈りの合図であるはずの鐘は、今や人々に不安と恐怖を与えるだけだった。
「また……鐘が鳴った……」
「これは神の怒りか、それとも……」
路地裏で膝を抱える民衆の瞳には、光が失われていた。
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### 2
その頃、レオンの宿。
仲間たちは重苦しい空気の中で集まっていた。
誰もが疲れ果て、言葉少なに沈黙している。
ついに、僧侶の少女ミリアが立ち上がった。
震える声で、だが決意を宿した瞳でレオンに告げる。
「……ごめんなさい、レオン。
私は聖堂へ戻る。聖女様のもとに行くわ」
その言葉に、仲間たちは一斉に息を呑んだ。
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### 3
戦士ダリオが怒鳴る。
「何を言ってる! 聖女は俺たちを“異端”と決めつけたんだぞ!」
だがミリアは首を振る。
「だからこそ確かめたいの。
神の声が本当にレオンを否定しているのか……私の目で見極める必要があるのよ」
涙を浮かべながら、彼女は仲間たちに背を向けた。
その小さな背中に、誰も言葉を投げかけることができなかった。
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### 4
レオンは唇を噛みしめ、ただ一言だけを搾り出した。
「……行くなら、気をつけろ」
それは止める言葉ではなかった。
彼女を信じたい気持ちと、裏切られる不安とが、心の中でせめぎ合っていた。
扉が閉じられる音が響いた瞬間、仲間たちの絆に確かな裂け目が生まれた。
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### 5
一方、聖堂では。
セラフィナが夜の祭壇に祈りを捧げていた。
そこへ、白い法衣に身を包んだミリアが駆け込む。
「聖女様……! どうか教えてください!
レオンは……本当に偽りなのですか?」
セラフィナは驚いたように彼女を見つめ、微笑んだ。
「ようやく戻ってきてくれましたね、娘よ。
心配はいりません……神は常に一つの声で語るのです」
その優しい声に、ミリアの胸は揺れ動く。
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### 6(ラスト)
だが、聖堂の奥。
仄暗い祭壇の影で、黒衣の者たちが静かに頷き合っていた。
「ひとり、勇者の仲間が戻ったな」
「これで、内側から裂け目を広げられる」
鐘の音はまだ止まない。
――その響きは、裏切りと陰謀の始まりを告げるものだった。
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