第9章 裂けゆく絆
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王都の空は黒煙に覆われていた。
火の手はすぐに鎮火されたが、燃え盛る炎が人々の心に植え付けたのは恐怖と不信だった。
「聖女様は神の声を聞けないのでは……」
「勇者は二人、いや、どちらも偽りなのかもしれぬ」
「この国は……もう終わりだ」
誰もが囁き、互いに顔色を伺いながら生きる。
その不安は、仲間たちの間にさえも静かに忍び込んでいた。
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### 2
宿の一室。
レオンは仲間と共に集まっていたが、空気は重く沈んでいた。
治癒魔法を施してくれた僧侶の少女ミリアが、唇を噛みしめながら声を上げる。
「ねぇ、レオン……あなたは、本当に勇者なの?」
部屋の空気が凍りつく。
彼女の目は涙で揺れながらも、疑念を拭えずにいた。
「だって……聖女様が“偽り”だと断言しているのよ。
もしも……もしもあなたが偽物なら、私は――」
言葉を最後まで言えず、ミリアは俯いた。
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### 3
仲間の戦士ダリオが立ち上がり、怒鳴る。
「ミリア! 何を言ってる! レオンがどれだけの人を救ってきたと思ってるんだ!」
だが彼の拳も震えていた。
――心の奥底に、小さな疑念が芽生え始めているからだ。
レオンは深く息を吸い込み、静かに口を開いた。
「……俺は“勇者かどうか”なんて気にしてない。
ただ、俺は……守りたいんだ。命も、笑顔も、この街の未来も」
その言葉に一瞬、場が静まり返ったが、誰も完全には納得できない。
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### 4
一方その頃、ユリウスは王城の庭で剣を振るっていた。
血走った目で、休むことなく剣を振り下ろし続ける。
「偽物が……俺の光を奪った……」
その呟きは次第に呪詛のように変わっていく。
そこへ、聖堂騎士長が近づき、ひざまずいた。
「ユリウス様。どうかご自愛を……しかし、あの混乱を収めるには、あなたの存在こそ必要なのです」
ユリウスは剣を止めずに答える。
「ならば、偽者を討つ……それが俺の役目だ」
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### 5
夜。
レオンは一人、街を歩いていた。
人々の視線は冷たく、囁きは耳に突き刺さる。
「……あれがもう一人の勇者か」
「災いを呼び込んだ存在だ」
彼は黙って受け止めながらも、心の奥で孤独が膨れ上がっていく。
そこへ、フードを被った影が近づいた。
「勇者を名乗る若者よ……君は利用されているだけだ」
「誰だ……?」
「真実を知りたければ、聖女の陰に潜む“もう一つの声”を探せ」
言い残し、その影は闇に消えた。
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### 6(ラスト)
宿へ戻ると、仲間たちの間には冷たい沈黙が漂っていた。
ミリアはレオンを見ようとせず、ダリオも拳を握りしめたまま俯いている。
――信じ合ってきた絆に、亀裂が走り始めていた。
外では、夜風が王都を包み、どこからか不気味な鐘の音が響いていた。
まるで、これから訪れる崩壊を告げるかのように。
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