第1章 勝利の影に潜むもの
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戦の余韻がまだ漂う魔王城。
広間は熱気に包まれていた。
「陛下万歳!」「人間どもなど恐れるに足らず!」
兵士たちが杯を掲げ、歓声を上げる。
豪奢な料理と酒が並び、勝利の宴が繰り広げられていた。
僕は玉座に座り、笑みを作って応じる。
「うむ……よくやった。今日の勝利は、お前たち一人一人の勇気のおかげだ」
声を張るたび、胸の奥で小さな罪悪感が疼いた。
(……本当は全部、偶然と誤解なんだけどな)
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ゼフィルスが杯を片手に進み出た。
「陛下の采配あっての勝利。魔族すべてがその御威光を信じております」
兵士たちが一斉に頷き、再び「万歳!」の声が響く。
その光景は、僕にとって誇らしくも恐ろしかった。
(この信頼が……全部“嘘”の上に成り立っているなんて)
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宴が続く中、部屋の片隅。
黒衣の男――四天王の一人、参謀グロウは黙って盃を傾けていた。
その眼差しは冷たく、笑っている兵士たちを見透かすようだ。
「……偽りの魔王、か」
低く呟く。
杯の酒よりも濃い、黒い野心がその胸に渦巻いていた。
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その夜。
僕は宴の疲れで部屋に戻る途中、廊下でリュミエールに呼び止められた。
「陛下……お顔が優れませんね」
「……ちょっと、疲れただけだよ」
リュミエールは心配そうに僕を覗き込み、声を落とした。
「……無理をなさらないでください。陛下は、“演じる”ことに慣れすぎているように見えます」
ギクッと心臓が跳ねた。
「な、なにを……」
「ふふ。ごまかさなくても。……でも大丈夫。私は、陛下が“偽物”であろうと、“本物”であろうと……信じています」
微笑みと共にそう囁く彼女の声は、やけに優しかった。
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一方その頃。
暗い塔の一室で、グロウは密偵たちを集めていた。
「――やはりあの若造、魔王の器ではない」
爪で机を叩きながら、不気味に笑う。
「兵どもは盲信している。だが、長くはもつまい。……時が来たら、“真の王”を示すのはこの私だ」
部屋の空気が冷たく凍りついた。
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