第6章 聖女の裁き
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剣と剣がぶつかり合う音が、王都の中央広場を震わせていた。
火花が散り、石畳が削れ、観衆は悲鳴と共に後退する。
だが誰ひとり、その場を去ろうとはしなかった。
人々は固唾を呑んで見守っていた――「本物の勇者」を見極めるために。
その群衆を見下ろすように、高台に立つ白き聖女セラフィナ。
彼女は胸の前で祈りを結び、澄んだ声を響かせた。
「神よ。堕ちた勇者と真の勇者が争うこの場に、御身の裁きを示したまえ」
次の瞬間、空が割れるように光が降り注いだ。
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天より舞い降りた二条の光が、戦う二人を包み込む。
ユリウスの手に握られた聖剣が、白銀に輝く。
「見よ! やはりユリウス様だ!」
群衆の一角から歓声が上がる。
だが、すぐにレオンの剣もまた応えるように強く光を放った。
金色の輝きが彼の全身を包み込み、石畳に影を長く落とす。
――二つの光は互いに拮抗し、どちらも消えなかった。
広場にざわめきが広がる。
「なぜ……二人とも光を……?」
「神が二人の勇者を選んだというのか……?」
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セラフィナの顔がわずかに歪んだ。
その瞳には戸惑いと焦燥が宿っていた。
「……そんなはずはない。神は唯一の勇者を選ぶ……それが理。
なのに……なぜ……?」
ユリウスは怒声を上げ、力任せに剣を振り下ろす。
「俺だ! 俺こそ選ばれし勇者だ! 貴様は偽者に過ぎない!」
刃が交わり、耳を裂く衝撃音が広場を揺るがす。
観衆は恐怖に押されながらも、目を逸らすことができなかった。
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レオンは歯を食いしばり、ユリウスの刃を受け止めながら叫んだ。
「神がどう言おうと関係ない!
俺は、この手で守ってきた命を、偽りだなんて呼ばせない!」
彼の言葉に、一部の民衆が涙を流し、また別の者は動揺を隠せず顔を覆った。
――“どちらが本物か”ではなく、“どちらを信じたいか”。
人々の心は揺れ始めていた。
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セラフィナは必死に声を張り上げる。
「民よ! 惑わされてはなりません!
神の声はひとつ! 裏切り者を討たねば、この世に未来は訪れぬ!」
彼女の言葉と共に、ユリウスの剣が再び激しい光を放つ。
それはセラフィナの祈りと共鳴しているかのようだった。
だが、レオンもまた倒れずに立ち続けていた。
血を流し、呼吸を荒げながら、それでも前を見据える。
「……俺は……俺自身の意志で立っている。
それだけは、誰にも否定させない……!」
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### 6(ラスト)
二人の剣が再びぶつかり、天地を揺るがす閃光が走った。
群衆の悲鳴、祈り、歓声が入り混じり、王都の広場は混沌に包まれる。
その中で――聖女の裁きは未だ決着を見せなかった。
むしろ裁かれるべきは「勇者」ではなく、「神託そのもの」ではないのか。
そんな疑念が、人々の心の奥底に芽生え始めていた。
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