第12章 迫り来る総力戦
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大地が震えた。
見渡す限りの平原に、人間軍が押し寄せていた。旗が林立し、鎧の輝きが朝日を反射する。
「……すごい数だ」
僕は思わず呟いた。数千、いや万はいるかもしれない。
城壁の上で魔族兵たちがざわめく。
「人間軍が……」「これほどの大軍を……」
ゼフィルスが厳しい表情で進み出る。
「陛下、ここが決戦の刻です。どうか、ご采配を」
(やばいやばいやばい! 采配とか、完全に無理ゲーじゃん!)
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それでも僕は、深呼吸して前に出た。
兵士たちの目が、一斉に僕に向けられる。
震える声を必死に張り上げた。
「恐れるな! 我が一睨みで、この大軍すら塵と化す!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
空が轟いた。
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雲間から雷鳴がとどろき、突風が吹き荒れる。
その風に煽られ、城壁の巨大な旗が翻る。
炎のように燃える魔王の紋章。
「う、うおおおお!」
「陛下が天を支配なされた!」
兵士たちが一斉に膝をつき、歓声を上げる。
(ちょ……本当にただの天気なのに!? 神様、タイミング良すぎ!)
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だが人間軍も動いた。
号令と共に矢の雨が降り注ぐ。
「守れ!」
ゼフィルスが翼を広げ、兵士たちが盾を掲げる。
金属の衝突音、魔法の爆裂音が響き渡る。
戦場は一瞬で修羅場に変わった。
叫び声、剣戟、土煙。
僕はただ立ち尽くし、心臓を鷲掴みにされたように鼓動を感じていた。
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その時。
背後の大広間で、リュミエールが呪文を唱え始めた。
「陛下の御力を、この儀式で増幅します!」
魔法陣が輝き、まるで僕の足元から光が立ち昇っていく。
兵士たちが一斉に叫ぶ。
「見よ! 陛下の真なる姿を!」
(ちょっ、これ完全に僕がやったことにされてる!?)
だがもう止められない。
光の柱が天を貫き、戦場全体を照らした。
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人間軍の先陣が怯んだ。
「ば、馬鹿な……あれが魔王の力……!」
勇者アレンも剣を握りしめ、歯を食いしばる。
「……やはり、俺が……この魔王を討たなければ!」
光に照らされた彼の横顔は、決意と迷いが入り混じっていた。
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戦は膠着したまま夜を迎えた。
両軍とも大きな損耗は避け、退却の号令が響き渡る。
闇に包まれた戦場に、疲労と緊張だけが残った。
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### 8
魔王城へ戻った僕は、兵士たちの歓声に迎えられた。
「陛下万歳!」「これで人間どもも恐怖する!」
玉座に座らされる僕。
その声を聞きながら、心の中で叫んでいた。
(……僕は、ただの偽物だ。偶然と誤解で“魔王”になっただけ。それなのに……こんなにも期待されてる)
胸の奥で、罪悪感と責任感が渦を巻く。
同時に、抗えないほどの熱も湧いていた。
(だったら――もう逃げない。最後まで演じ切る。偽りの魔王として、みんなを導く!)
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遠く離れた人間の陣営では、勇者アレンが天を仰いでいた。
「魔王……あいつは何者なんだ……?」
彼の胸にもまた、憎しみと同じくらいの迷いが育ち始めていた。
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