第8章 もう一つの祭壇
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怪物が消え、広場に静寂が訪れた――かに見えた。
しかし、枢機卿の声がその沈黙を切り裂く。
「愚かなる勇者よ。お前が浄化したのは、ただの“器”にすぎぬ」
彼が杖を地に突き立てると、大地が唸りをあげる。
石畳の下から、さらに深い赤黒い光が滲み出し、地面がひび割れ始めた。
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### 2
地割れの隙間から現れたのは、広場よりさらに巨大な魔法陣だった。
先ほどの祭壇よりも複雑な紋様が重なり、血で描かれた模様が脈打つように明滅する。
リオネルが目を見開いた。
「くそっ……まさか二重構造だったのか!」
ミレイアの顔色は蒼白になる。
「さっきの怪物は……ただの“封印”……本命はこれ……!」
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### 3
祭壇の中央に、影が凝縮していく。
それは人の形を模していたが、背から無数の触手を伸ばし、顔は仮面で覆われていた。
圧倒的な気配に、空気が凍りつく。
人々の悲鳴が再び広場に溢れ、誰もが膝を折りかけた。
「こいつは……人じゃない……」
僕は喉を震わせて呟く。
枢機卿は狂気じみた笑みを浮かべた。
「これこそが、我が神の代行者――“殲滅の使徒”!」
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### 4
影の使徒は一歩踏み出すだけで、地面が砕け散った。
その動きは怪物とは違い、理性と技を帯びたもの。
レオンの一撃を軽々と受け止め、逆に吹き飛ばすほどの力を持っていた。
「ぐっ……! 速い……!」
レオンは血を吐きながらも立ち上がる。
影の使徒は冷たく告げる。
「光を持つ者よ。お前の存在は、神への冒涜だ」
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### 5
リオネルが盾を構えて前に出るが、一撃で吹き飛ばされた。
僕が結界魔法を張るも、指先一つで粉砕される。
その余波だけで、体中が焼けるように痛んだ。
「こ、これが……本命の力……!」
枢機卿は高らかに叫ぶ。
「さあ! 勇者をその血で染め上げよ!」
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### 6(ラスト)
レオンは再び聖剣を握りしめた。
だが、その刃はわずかに揺らぎ、光は先ほどより弱々しい。
――祭壇が“光”を食っている。
このままでは、聖剣さえも奪われる。
僕は唇を噛み、心の底から叫んだ。
「レオン! 負けるな! お前は……俺たちの勇者だ!」
その声に呼応するように、聖剣がかすかに震えた。
だが影の使徒は容赦なく歩み寄る。
「滅びを知れ、偽りの勇者よ――」
広場に、再び血戦の幕が上がろうとしていた。
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