第10巻 第1章 血塗られた契約
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夜の王都は、未だ広場の戦火の余韻を残していた。
崩れた鐘楼、焼け焦げた石畳、怯えた人々。
それでも、彼らの瞳には確かな光が宿っていた。
――勇者が、彼らを救ったのだ。
だがその光の陰で、静かに新たな影が動き出していた。
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広場を離れた僕たちは、裏路地に身を潜めていた。
レオンは聖剣を膝に立て、深く息を吐く。
「……あの枢機卿、まだ終わってないな」
リオネルが壁にもたれかかり、低く応じる。
「当然だ。教会は枢機卿ひとりが倒れても揺るがん。
むしろ――お前が反旗を翻した今、奴らは全力で潰しに来る」
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ミレイアが怯えたように声を震わせる。
「そんな……じゃあ勇者様は、これから……」
レオンはかすかに微笑んだ。
「心配するな。俺はもう決めた。
教会の勇者じゃなくても……俺は俺のやり方で、人を守る」
その言葉に、僕の胸が熱くなる。
だが同時に、不安がよぎった。
――人を守るために、彼はどこまで堕ちてしまうのか。
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### 4
その夜。
王都の地下聖堂では、別の儀式が進められていた。
血で描かれた魔法陣。
その中心に立つのは、教会の高位枢機卿。
「勇者レオン……。ならば我らも新たな“契約”を結ぼう。
勇者を喰らう勇者――その器を造り出すのだ」
赤黒い光が陣を走り、天井にまで届く。
そこには、鎖に繋がれ呻き声をあげる影があった。
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### 5
リオネルがふいに顔を上げる。
「……嫌な気配だ」
彼の瞳が暗闇を射抜く。
僕も背筋に寒気を覚えた。
「まさか……教会が、また新しい勇者を?」
リオネルは冷たく笑う。
「いや……“人間”の勇者じゃない。
あれは……血塗られた契約から生まれる、怪物だ」
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### 6(ラスト)
夜空に、再び鐘の音が響く。
それは祈りではなく、血の契約の始まりを告げる音だった。
勇者と魔王。
その狭間に、新たな“第三の影”が現れようとしていた。
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