第11章 勇者と魔王、邂逅の刻
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夜明け前。
霧の深い渓谷を渡る一本橋の上で、僕は勇者と対峙していた。
斥候が「勇者が潜入を試みている」と報告したため、ゼフィルスたちが出撃。
けれど、なぜか僕自身も戦場に引き出されてしまったのだ。
橋の向こう、剣を構える青年。
――勇者アレン。
その瞳は真っ直ぐに僕を射抜く。
(うわ……やばい。勇者本人と真正面で……! どうする俺!?)
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アレンが声を張った。
「……お前が魔王か」
低く、揺るがない声。
僕は喉がひりつきながらも、玉座で鍛えた“威厳ボイス”を思い出す。
「そうだ。我こそが魔王……人間どもを裁く者だ」
アレンの眉が僅かに動く。
その沈黙が怖かった。
「……お前は、本当に“魔王”なのか?」
ドキッとする。
(な、なにその直球質問!?)
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僕は視線を逸らさず、ゆっくり答えた。
「……魔王とは名であり、役割だ。血も生まれも関係ない。必要とされた者が魔王となる」
これは、嘘じゃない。
嘘と本音の中間の言葉。
アレンはじっと僕を見つめた。
剣先はわずかに揺れたが、まだ下ろさない。
「……ならば問う。お前は人間を滅ぼす気か?」
心臓が跳ねる。
(僕は……滅ぼすなんて絶対したくない。でも、それを言ったら……魔族に疑われる)
喉が詰まる。
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沈黙を破ったのは、アレンの叫びだった。
「俺は……お前を斬らねばならない! 仲間の命を奪った魔族の王だから!」
その剣には怒りと悲しみが混ざっていた。
村を焼かれた子ども。家族を失った少女。仲間を喪った戦士。
アレンはその声を背負って立っている。
僕は言葉を返せなかった。
――だって僕だって知っている。墓前で泣いていた魔族の少女の声を。
(人間も魔族も、互いに同じように憎しみを抱えてるんだ……)
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剣が振り下ろされる瞬間、ゼフィルスが割って入った。
刃と刃がぶつかり、火花が散る。
「陛下に手を出させはせぬ!」
橋の上で激しい戦闘が始まる。
僕はただ立ち尽くし、アレンの瞳を思い返していた。
あの眼差し。敵意だけじゃなかった。
問いかけるような、不安を探るような光。
(勇者……君も、迷ってるんだな)
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結局その場はゼフィルスの加勢で勇者一行が退却し、僕は命拾いした。
けれど胸の奥に残ったのは安堵ではなく、重たい余韻だった。
「……もし勇者と二人きりで言葉を交わせたら……」
思わず呟く。
それが敵を欺くためか、真実を分かち合うためか、自分でも分からなかった。
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