第12章 勇者と魔王の影
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夜の広場は、崩れた瓦礫と静まり返った人々で満ちていた。
誰もが言葉を失い、ただ勇者レオンの背中を見つめている。
その沈黙を破るように――重い靴音が響いた。
人々の間を抜け、黒衣の騎士たちが進み出る。
彼らの鎧には、教会の紋章が刻まれていた。
「……やはり来たか」
リオネルが剣に手をかける。
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騎士たちは道を開き、その奥から一人の影が姿を現した。
金糸の法衣を纏った、別の枢機卿。
その表情には怒りではなく、冷笑が浮かんでいた。
「勇者よ……よくも我らの“器”を壊してくれたな」
「器……?」
レオンが眉をひそめる。
枢機卿は淡々と告げた。
「民の心など、信仰という器に注がれる水にすぎぬ。
器を壊したところで、また新たな器を用意すればよい」
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### 3
その言葉に、群衆がざわめく。
「俺たちを……器だと……?」
「ただ利用していただけなのか……」
恐怖と怒りが人々の中で渦巻き始めた。
それを感じ取ったレオンは、聖剣を強く握りしめる。
「ふざけるな……! 人を器だなんて呼ばせない!」
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### 4
その瞬間、鐘楼の影からもう一つの気配が現れた。
黒きマントを翻し、鋭い瞳で広場を見下ろす男――リオネル。
「……これ以上、茶番を続けるな」
低く響く声に、人々は振り返る。
勇者と呼ばれた者が二人。
光の中に立つレオンと、影に立つリオネル。
その光景は、まるで「勇者と魔王」が並び立ったかのようだった。
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### 5
枢機卿は両手を広げ、不敵に笑う。
「面白い。勇者と魔王、二つの存在をここで討ち滅ぼそう」
騎士団が剣を抜き放ち、広場に緊張が走る。
僕は魔術を構え、リオネルの隣に並んだ。
ミレイアも震えながらも杖を握り締める。
――決戦の幕が、いよいよ上がろうとしていた。
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### 6(ラスト)
レオンは振り返り、僕たちを一瞬だけ見た。
その瞳には恐れも迷いもなく、ただ一つの決意が宿っていた。
「俺は……もう逃げない」
聖剣が光を放ち、夜空を裂く。
その影の隣で、リオネルの剣が静かに輝きを帯びる。
勇者と魔王――二つの影が並び立つ瞬間、王都は新たな戦乱の幕開けを迎えた。
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