第4章 勇者の動揺
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広場は炎と怒号に包まれていた。
群衆は「勇者」を讃える声と「魔王」を罵る声とに割れ、混乱は頂点に達していた。
その中心で、レオンは立ち尽くしていた。
剣を握る手が震え、額から汗が滴り落ちる。
「……俺は……何を信じれば……」
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### 2
リオネルが一歩踏み出し、必死に訴える。
「レオン! お前は自分の目で見たはずだ!
“魔族”だと斬った相手が、人間だったことを!」
「だが……俺は勇者だ!」
レオンが叫ぶ。
「人を導く光でなければならない……!
それなのに、俺が斬ったのが人間だったなんて……認められるわけがない!」
その声は悲鳴のようだった。
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### 3
僕は群衆の喧噪を押しのけるように、静かに声を投げた。
「レオン……真実はお前の心が決めろ。
教会の言葉でも、俺たちの言葉でもない。
お前自身が、この目で見て、この心で感じたものだ」
その言葉に、レオンの瞳が揺れる。
だが、群衆の叫びがそれをかき消した。
「魔王の誘惑に耳を貸すな!」
「勇者様! 惑わされないで!」
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### 4
教会の使者が一歩前に出る。
「勇者よ、迷うことはない!
神が導く道を信じろ! 魔王の声は毒にすぎぬ!」
その言葉に、レオンの手が剣を強く握り締めた。
目を閉じ、苦悩に歪む顔。
「俺は……俺は……」
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### 5
その瞬間、瓦礫の陰から小さな少女が飛び出した。
すすで顔を汚したその子は、泣きじゃくりながらレオンの裾にすがった。
「勇者様……お願い……お父さんを助けて……!
“魔族”にされちゃったの……でも、お父さんは人間なの……!」
群衆が息を呑む。
リオネルも僕も、息を詰めてその場を見守った。
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### 6(ラスト)
レオンは少女の瞳を見つめた。
涙に濡れたその瞳は、嘘を知らぬまっすぐな輝きを宿していた。
勇者の剣が震える。
「……俺は……」
彼の心の中で、教会の声と少女の声がせめぎ合う。
真実と偽りの狭間で、勇者は揺れ続けていた。
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