第10章 偽りと真実の狭間で
# 第10章 偽りと真実の狭間で
### 1
夜。
僕は玉座の間にひとり座っていた。
静寂。蝋燭の明かりが揺れ、天井の影が長く伸びる。
この場所にいると、どうしても胸が重くなる。
(……僕は“魔王”なんかじゃない。ただの高校生で、剣も魔法も使えないのに)
(それなのに、みんなは僕を信じて、命を懸けて戦ってる)
両手を見つめる。震えていた。
勇者たちの鋭い瞳。墓前で泣いていた魔族の少女。兵士たちの歓声。
その全部が頭に蘇る。
「……これでいいのか?」
呟いても、答える者はいない。
---
### 2
扉が軋み、ゼフィルスが入ってきた。
「陛下、まだお休みになられていなかったのですか」
「……眠れなくて」
ゼフィルスは少し黙り、やがて近づいてきた。
「私も同じです。……陛下をお守りする責任の重さに、押し潰されそうになることがあります」
その言葉にハッとした。
彼もまた、僕と同じように不安を抱えているんだ。
「でも、陛下が玉座に座ってくださっているだけで、私は前に進めます」
ゼフィルスは真っ直ぐに言った。
胸が熱くなった。
(……嘘なのに。僕は偽物なのに。それでも、支えになれてる?)
---
### 3
その時、不意に幼い笑い声が廊下から聞こえた。
扉を開けると、小さな魔族の子どもたちがこそこそ走り回っていた。
「陛下だ!」
「ほんとにいたんだ!」
僕を見るなり、子どもたちは目を輝かせた。
「魔王様がいれば、人間なんか怖くない!」
「大きくなったら、僕も陛下みたいに強くなる!」
無邪気な声が胸に突き刺さる。
彼らにとって僕は、“嘘”じゃなくて“希望”なんだ。
背筋が震えた。
(……逃げちゃいけない。偽物でも、信じてもらえるなら……)
---
### 4
玉座に戻り、拳を握る。
「……僕は魔王だ。偽物でも、みんなのために魔王を演じ切る」
心の奥で決意が芽生えた瞬間。
それは同時に――自分を追い込む鎖でもあった。
---




