北欧系のクール美人な先輩に告白したら、デートの練習として付き合えることになりました。
土曜日。午後二時。
待ち合わせ場所のカフェへ少年は心臓を高鳴らせて入店した。
窓際の席に腰かけ、適当にフルーツサンドイッチを注文。
今日は彼にとって運命の日だ。
「すまない。遅刻してしまった」
艶のある声がかけられ少年が顔を上げると、ひとりの少女が微笑を浮かべて立っている。
長く艶やかな金髪。赤縁眼鏡の奥から覗く切れ長の緑色の瞳。透けるように白い肌。
白いワンピースの上からでもスタイルの良さが際立つ日本人離れした美少女だ。
少女は流れるような動きで少年の向かいの席に腰かけると手早くコーヒーを注文し、改めて微笑む。交わるふたりの視線。静寂。
最初に口を開いたのは少年だった。
「有村アリス先輩。もしお手紙を読んだのなら返事を聞かせていただけませんか」
「まあ結論を急がないでくれたまえ。まずはリラックスしてからにしよう。よかったらこのフルーツサンドをいただいてもいいかな?」
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
少年が皿を差し出すとアリスは長く白い指でサンドを摘み、はむはむと食べる。
ごくんと細い喉が鳴り満面の笑顔を見せる。
「美味しい。家で作るのもいいが、店で食べるとより美味しく思える。
雰囲気がそうさせているのだろうか……ところで、きみは食べないのかな。さっきから私が食べているのを見ているだけだが」
「すみません。先輩が食べている姿があまりにも美しくて」
「美しい、か。光栄な評価を感謝するよ」
少年は赤面してうつむく。彼の様子にブルーベリーサンドイッチをひとつ摘まんだアリスはそれをふたつにちぎって片方を少年に差し出した。
「もともとは君のものだし、私ばかりが食べていては申し訳ない。フルーツサンドのおいしさをシェアしたいと思ってね。少しなら食べられると思ったのだが、迷惑だろうか」
眉を八の字にして少年に上目遣いする。緑色の瞳が潤む。
先ほどまでのクールさから一変した可愛さ全開の態度に少年は頷き、フルーツサンドを受け取る。
半分こしたサンドの味はこれまで少年が食べたサンドの中でも格別のものだ。
やがてアリスが注文したコーヒーが届き、彼女がそれを半分まで飲んだところで話は再開された。
「君からもらったラブレターの返事だが、残念ながら君とは付き合うことはできない。すまない」
机に頭が突きそうなほど深く頭を下げるアリスに少年は言った。
「どうして、ですか? 好きな人でも」
「いや。好きな人はいないよ。ただ、私に恋は早いような気がしてね。周りの女子は彼氏とデートしたりしているだろうが、私にはその勇気がないのだよ。情けない限りだが」
「傍から見ればデートみたいに見えると思いますけど」
後輩の一言にアリスはハッとなった。
「たしかに……そうかもしれないな。普通に食事をして話すだけなら私にもできるかもしれない……それなら……」
アリスは言葉を切って苦笑した。
「きみさえ良かったら私のデートの練習に付き合ってもらえないだろうか」
「もちろん、喜んで」
おしまい。