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警官隊到着

「す、すまなかった。俺は偽の結婚式だなんて知らなかったんだ。誘われて参加しただけだったんだ」

「それで俺が許すと思っているのか?」

信夫の謝罪をみても、太郎はみじんも許す様子をみせない。

「悪かった。何でもする」

「何でもか……そうだな……」

それを聞いた太郎はニヤッと笑うと、嘲笑いながら告げた。

「よし。なら俺は今日から最上階のスイートルームに泊まるから、その費用は全部お前が払ってくれ」

「そ、そんな……一泊二百万はするんだぞ!それにすでに某国の王族が泊まっていて……」

必死に言い訳するが、太郎は聞く耳をもたない。

「そんなの知ったこっちゃない。お前がなんとかしろ」

そう言い捨てると、太郎はエレベーターに向かう。周囲にいた警備員たちは、太郎の腕の一振りで壁に叩きつけられて気絶した。

「お、おい。お前の友達なんだろ。何とかして止めろ」

それを見て、焦った支配人が信夫に命令する。

「む、無理です」

「バカ!スイートルームに今泊っているのは、とある中東国の王子だぞ。もし無礼があったら、このホテルだけの問題じゃなくて日本の外交問題にまでなるかもしれないんだ」

支配人にそう言われて、信夫は慌てて後を追う。しかし、彼が最上階のスイートルームで見た光景は、素っ裸で追いだされた王子とその愛人、壁に叩きつけられて気絶している護衛兵士だった。

「なんだこのホテルは!王子である私に無礼を働いて!」

風呂に入っているところを無理やり追い出されたのか、王子はパンツ一つはいてない裸で、あちこち傷ついていた。彼の愛人であるゴージャスグラマー美女も、タオル一枚で泣きわめいている。

「す、すいません」

信夫はその場でコメツキバッタのように土下座するが、彼の怒りは収まらない。

「このことは、我が国の大使館を通じて正式に抗議させてもらう。日本への石油輸出の優遇も解消だ!」

頭から湯気を立ち昇らせた王子は、素っ裸のままで去っていく。愛人も泣きながら彼の後を追いかけていった。

「まずい……これは本当にまずいぞ……こんな大事になって、クビになるだけじゃすまないかも……」

王子に去られた信夫は、真っ青になって立ち尽くすのだった。


信夫は支配人から、これでもかと責められて涙目になっていた。

「そもそも、なんであのテロリストがわざわざうちのホテルに来たんだ」

支配人に睨みつけられて、信夫は蚊の鳴くような声で答える。

「わかりません……」

「嘘をつけ。お前があいつを怒らせたから、うちが目をつけられたんだろう」

支配人はパソコンの画面を指し示す。そこでは、太郎を嵌めた偽結婚式の動画が表示されていた。その動画の中では、信夫が楽しそうに太郎に向けてあざけりの言葉をかけている音声が流れていた。

「本当にバカだよな。夏美みたいな一軍女子が、お前みたいな最低の廃スぺ男と付き合う訳ないのに。それくらい分かれよ。常識もないのか」

さんなひどい言葉をなげかけ、もっていたワインを投げつける。画面の中の太郎は、ワインで汚されたタキシード姿で屈辱に震えていた。

「こんなことをする奴は、うちのホテルにはふさわしくないな」

「そんな!謝ります。だから許してください」

必死に土下座する信夫に対して、支配人は冷たく答えた。

「俺に謝ってどうするんだ。許してもらうならあのテロリストだろう。今から行って謝罪してきたらどうだ」

「それは……勘弁してください」

信夫はそう泣き言を言う。再び彼らの前に現れた太郎は、以前とは別人になっていた。訳の分からない力を振るい、法律もモラルも無視して破壊活動をするテロリストである。話が通じない彼の前に出たら、問答無用で殺されるかもしれなかった。

土下座し続ける信夫をみて、支配人は再びため息をつく。

「まあ、今お前を責めても仕方ない。こうなったら警察に通報するしかないだろう。当ホテルの信用に傷がつくだろうが、仕方がない」

太郎のもとに行かされなくて済んだとほっとする信夫に対して、支配人はさらに続けた。

「この騒動の損害は、すべてお前に請求させてもらうからな。覚悟しておけよ」

「はい……」

それを聞いて、信夫はがっくりと肩を落とすのだった。


一時間後

支配人の通報により、警官隊が駆けつけてきてホテルを囲む。

彼らを指揮しているのは、新進気鋭の指揮官として警察の中でも期待されている青年だった。

「橘!来てくれたんだな」

警官隊の指揮官をみて、信夫が狂喜する。彼の名前は橘圭司。太郎の同級生の一人で警視総監の甥、若くして警視になったエリート警察官である。

「ああ。本当ならあの程度の奴に俺が出るまでもないんだが、叔父さんに発破をかけられたんだ。国家権力に反抗するあの生意気な庶民をやっつけてこいってな」

そういうと、圭司は自信たっぷりに胸をそらした。

「少々変な力があるといっても、所詮は人間さ。警察の力には逆らえないということを思い知らせてやる」

そんな彼に、ホテルの支配人は不安そうな目を向ける。

「……それで、どうするつもりですか?」

「決まっているだろ。機動隊に命令して、奴を襲撃して……」

そこまで聞いたところで、支配人は首を振る。

「当館は日本を代表するホテルです。宿泊客には上流階級の方々も多く泊まっています。そんなことをされると……」

「知ったことか!警察には関係ないことだ。おい。さっそくあの雑魚を引きずりだすぞ」

圭司の劇を受けて、100人の機動隊がホテルに乗り込んでいく。

「きゃぁぁぁぁぁ!何なのこの人たち」

「な、なんだ!何が起こったのか?」

ホテルの宿泊客たちは、いきなり筋肉ムキムキのごつい機動隊員たちが入ってきたので、パニックを起こして逃げ出していった。

すべての宿泊客が去った後、支配人は信夫を睨みつける。

「うちは信用第一の商売をしているんだ。この責任はどう取るつもりかね」

「……」

信夫はうつむいたまま、言葉も発せられない。

「こんなことになったのも、元はといえはお前が軽率な行動をとったせいだ。偽結婚式に参加して復讐の対象になるような従業員は雇っていられないな」

「そ、そんな……」

首宣告をされた信夫は、力なくその場にへたりこむのだった。



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