勇者の血を引くもの
20年後
「……以上が、シャングリラ帝国の建国記になります」
眼鏡をした中年の教師が、そういって本を閉じる。目をキラキラさせて話を聞き入っていた三人の少年少女は、改めて自分の父親について尊敬の念を強くした。
「お父さんって、昔は結構やんちゃしていたんだな」
青い髪をしたシャングリラ帝国第一皇子、次郎・シャングリラはそういって苦笑した。
「今はただのハゲ親父に見えるけどな」
黒髪でちょっとやんちゃそうな顔をした、第二皇子三郎・シャングリラが笑う。
「もう。そんなことを言って。パパに失礼だよ」
金髪で可愛らしい顔をした第一皇女、花子・シャングリラがプンスカと怒って兄をたしなめた。
彼らは、太郎の血を受け継ぐ皇子たちである。それぞれ母親は違うが兄弟仲はすこぶるよく、共に同じ教育を受けてすくすくと育っていた。
「では、次は魔法訓練の時間です。今日は特別に土屋・千儀・水走の三将軍が……」
中年の女教師がそういったとたん、三人は示し合わせたように部屋から逃げ出す。
「やだ!土屋のおっさんの訓練は嫌だ」
「千儀の兄貴のネチネチした嫌味はもう聞きたくない」
「水走おばさんの超回復トレーニングはうんざり!女の子なのに筋肉ムキムキにされちゃう」
そういって、逃げ出していくのだった。
逃げ出した三兄妹は、シャングリラ城の城下町を歩く。町にはいくつものタワーマンションが立ち並び、多くの亜人族が幸せそうに歩いていた。
「平和な光景だなぁ」
次郎がのんびりした口調で漏らす。
「知っているか?昔はこの世界はほとんど人間ばかり外を歩いていて、亜人族は地下や洞窟にしか住めなかったんだぜ。まあ、今でも外の世界はそうらしいけどな。野蛮な世界だぜ」
三郎は、ちょっとバカにした口調で外の世界をこきおろした。
「ほんと、つまんないわよね。いろんな外見をした人がたくさんいるほうが面白いのに」
花子は道行く獣人族のケモノ耳をみながらつぶやく。
シャングリラ王国建国後、世界中から移民が殺到し、太郎はそれに応えた結果、新たに作られた島は200以上にも及び、移民してきた者も人間だけではなく他種族にわたる。
あらゆる移民を受け入れた結果、急激に人口が膨張し、現在では八億の人口を抱える大帝国に成長していた。
「知っているか?近いうち、とうとう日本が立ち行かなくなり、シャングリラ王国に合併を持ち掛けるみたいだぞ」
「うん。日本だけじゃなくて、台湾とか東南アジアのほとんどの国も、「アジア経済共栄圏」に加入して、通貨を「アーク」に統一するらしいね」
「そうなれば、わがシャングリラ帝国は世界一の大国になるわね」
三人は、帝国の明るい未来を予測してはしゃぐ。
「だけど、次の皇帝は誰になるんだろう。これだけ大きくなると、きっと半端なく責任が重くなるだろうし」
次郎が不安そうな顔になる。
「そこは、やっぱり戦闘力が強い長男の兄貴がふさわしいだろ」
「いや、魔力が一番強い花子がなるべきだよ」
「それをいったら、兄妹の中で戦闘も魔法も回復もできる、三郎兄ちゃんが総合力で一番優れているじゃない」
兄妹の中で、皇帝の座を押し付け合って言い争いが始まってしまう。誰もが世界一の大国となった帝国を継ぐのに、自分の力不足を感じて不安に思っていた。
「あーあ。どこかで俺たちの力を磨くのにいい場所がないかなぁ」
「皇子様育ちじゃ、実戦を経験してないからどうしても甘くなるんだよなぁ」
「パパみたいに、すべてをひれ伏させる力がないと、多種族連合である帝国のトップを勤めるのは難しいのよね」
三人がそう嘆いていると、いきなり地面に複雑な魔方陣が浮かぶ。
「こ、これは異世界召喚?」
魔方陣が輝き、三人の姿がその場から消えた。
「ううん……」
三人の目が覚めると、豪華な城の大広間にいた。
目の前には白い髭を蓄えた王様のような老人がいて、その両脇には筋肉ムキムキハゲ頭の騎士団長と黒いローブをまとった中年魔女がいる。
「目覚めたか。かつてこのシャングリラ世界を救いし勇者、太郎の血をひきしものよ」
白い髭の王様が呼びかけてくる。
「シャングリラ世界?ということは、もしかして、おじいちゃん?」
「んん?どういうことじゃ?」
「私は花子。ルイーゼお母さんの娘だよ」
金髪娘がにっこりと笑いかける。王は、その笑顔にかつて行方不明になった愛娘の面影を見出して、笑顔になった。
「そうか。ルイーゼの娘か、あえてうれしいぞ」
「私もうれしい。そうだ、紹介するよ。私のお兄ちゃんたち」
花子が次郎と三郎を紹介する。
「あの太郎にこんなでかい子がいるなんてなぁ。俺も年をとったもんだぜ」
ハゲ頭の騎士団長、元戦士ロナードは、そう感慨深げにつぶやいた。
「でも、この子たちは太郎をしのぐ潜在魔力を持っているわ。いったい元の世界に戻ってから、太郎になにがあったんだろ」
宮廷魔術師、元魔導士のメリッサは、そういって首をかしげた。
「それで、俺たちを呼び出して何の用なんです?」
次郎の問いかけに、国王は申し訳なさそうな顔になる。
「実は、「悪霊の神々バリモス」を名乗る異世界からの侵入者がこの世界に攻めてきてな。あまりにも圧倒的な魔力を誇るので、我らでは対抗できぬ。それで異世界から勇者の血を引きしものを召喚して……」
それを聞くうちに、三人の目が輝きだす。
「よーし。冒険の旅の始まりだ!」
「実戦経験を積んで、おやじより強くなってやるぜ」
「おじいちゃん。私たちに任せて!」
国王は、あまりにも乗り気な三人にちょっと引いてしまうのだった。
今まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
新連載を始めますので、告知させていただきます。
異世界に(として)転生しました
~お前たちが立っているのは俺の上なんだけど、わかってんの?~
理想世界バディ。その地底から、堕人族という人類の敵が出現した。世界は混沌に沈むかと思われたが、辺境の村のワルドは、女神ロースから未知の属性である「空」を授けられる。しかし、同時に彼の最愛の弟であるディミウスは全属性を与えられていた。
世界の混乱の裏では、ディミウスを主と崇める者たちによる「計画」が進められる。
勇者パーティの荷物持ちとして堕人王ダニエルと闘ったワルドは、裏切られて共に亜空間に追放されてしまう。しかし、そのことはすべてディミウスが裏で糸を引く「計画」によるものだった……。
果たしてディミウスの計画とは?壮大な世界創生ファンタジー開幕。




