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高天原破壊

「まったく、神を名乗りながら正当化か。情けない。本当は人間を恐れていたんだろう。人間に魔法技術を発展させると、いずれ自分たちまで滅ぼされると思って」

そんな月読を、太郎は逆にあざ笑う。

「その貧弱な肉体しかもたない今のお前たちじゃ、どう考えても人間に対抗できないし、地上でも生きられないもんな」

「……」

痛いところを突かれて、月読は沈黙する。

太郎はテレビカメラに向かって、神々は既に本来の肉体を無くし、霊体だけで「高天原」に存在しているという真実を語った。

「奴らの目的は、我々人間の体を利用して、自分たちが地球で生活できる新たな体を作り出すことだ。そのために、人間を攫って人体実験をしていたんだ」

真実を知らされて、視聴者たちは怒りに震えた。

「何が神だ!俺たちを実験動物扱いしやがって」

「あんな貧弱な体してる奴ら、怖くねーぞ」

すべての真実を知った視聴者たちは、神々に対する畏敬も、未知の文明を持つ存在に対する恐怖も薄れていき、ただ敵愾心だけが高まっていった。

そんな反応を見て、月読は顔を歪める。そしてグフッと咳をすると、勢いよく血を吐いた。

「どうやら、地上での活動限界時間を迎えたようだな。お前はもうすぐ死ぬ。そして死んだ後は、神としての記憶を失ったただの人間として転生することになるんだ」

冷たく見下ろしてくる太郎に、月読は最後の力を込めて睨み返した。

「いい気になるなよ。愚かな人間どもめ。我が殺されたと知ると、高天原の神々は貴様たちに神罰を下すだろう。」

「神罰とは、このことか?」

太郎が合図すると、モニターが切り替わる。それは周りの岩や宇宙ゴミ、人工衛星を取り込みながら、巨大化している物体だった。

モニターには、国際宇宙ステーションが呑み込まれている様子が映っている。その物体は一気に直径数キロメートルの巨体にまで成長すると、日本に向けて落下してきた。

「あれこそが最終兵器『神々の黄昏(ラグナロク)』だ。あと一時間ほどで太平洋沖に落下し、すさまじい衝撃波で日本とシャングリラ王国は滅ぶ。それだけではなく、高さ数十メートルの大津波が地球を一周して、すべての都市を押し流すだろう。神々に逆らいし人間への天罰だ。あはははははは!愚かな人間どもよ。滅びるがいい」

その言葉を残して、グレイの首が垂れる。日本三大神の一人、月読は人間を呪いながら死んでいった。

「そんな!巨大隕石が落ちてくるなんて!」

「もしかして、みんな死んでしまうのか?嫌だ!死にたくない」

バニックを起しそうになる視聴者たちに、太朗は冷静に告げる。

「皆、慌てるな。俺には既にこの事態に対処できる魔法を習得している」

太朗の様子に、視聴者たちは希望を見出す。

「しかし、そのためにはお前たち全員の協力が必要だ。俺を信じて、俺に魔力を捧げよ」

テレビをみていた視聴者たちは、太郎の言葉を信じて祈りを捧げるのだった

史上初めてのグレイとの対談生放送は、この時点で視聴率

90%を超えている。およそ一億人も視聴者たちの魔力が、テレビに差し込まれているカードを通じて東京スカイツリーに集められた。

「いいぞ。集まってきた魔力値が四兆ゼノを超えた。これであの隕石をなんとかできる」

スカイツリーが輝き、宇宙空間に向けて大魔力が放出される。人々から集めた大魔力を身に宿して、太郎は落下してくる巨大隕石に向かって飛び立つのだった。


高天原

神々の間では、多くの柱に宿った神々が『神々の黄昏(ラグナロク)』が地球に落下していく光景を見物していた。

「これは、すごいな」

「一つの世界が滅びることろをみられるなんて、めったに起きないことだわ」

神々は、まるで一大スベクタル巨編映画でも観ているかのように興奮している。しかし映画と違うところは、これが実際に起こっている悲劇ということである。

神々の間のサブスクリーンでは、いきなり訪れた終末に混乱し、逃げまどう世界中の人間の姿も見ることができた。

「炎の玉が降ってくる!」

大気との摩擦で真っ赤に輝く炎の玉が、地球を周回しながら地表めがけて落ちてくる様子は、世界中の人々に恐怖を与えている。

「神様!助けてください」

しかし、そんな祈りに神々が返したのは、あざけりの言葉だった。

「愚かな人間どもよ。神々に逆らったことを後悔するがいい」

「おそらく地球上の人間の99%は滅びるだろう。運よく生き残った者どもは、今度こそ神々に従順な家畜としてその身を捧げるのだ」

人々の祈りは神々に受け入れられることなく、『神々の黄昏(ラグナロク)』はついに日本に向けて落下コースに入る。

轟音を響かせながら落ちてくる巨大隕石に、人々は絶望のあまり涙を流しながら空を見上げた。

その時、巨大隕石に向かって一つの黒点が上昇していく。

「あれは……人間か?」

それは、強大な魔力をまとった史上最悪のテロリスト、山田太郎だった。

太郎は隕石の前に出ると、日本を守るための最後の魔法を使う。

「空間魔法『空間歪曲』発動」

大魔王レベル999の力を全開にして、日本国民全員の魔力を目の前の空間に注ぎ込む。

すると、空間に真っ黒い穴が開いた。

「え?」

それはみるみるうちに膨れ上がり、日本を覆うほどの巨大な穴に広がる。

「これはなんだ……太陽も、月も、星さえも消えていく」

あらゆる光を呑み込み、闇へと変えていく黒い穴。その中で、ただ一つ煌々と輝いているのは炎に包まれた『神々の黄昏(ラグナロク)』だけだったが、それも次第に闇へと呑み込まれていく。

「巨大隕石が空間の穴に吸い込まれていく」

人々は人類破滅をもたらすかと思われた災厄が穴に吸い込まれ、消えていくのを目撃して心から安堵する。

「太郎様……ありがとうございました……」

この日以降、史上最悪と言われたテロリスト山田太郎は、大破滅から人類を救った『救世主』としてあがめられることになるのだった。


高天原

空間に浮かんだスクリーンで見ていた神々たちは、『神々の黄昏(ラグナロク)』が空間の穴に吸い込まれていくのを見て驚愕する。

「なんだと!これはどういうことだ!

素戔嗚の焦った声が、高天原に響き渡る。

「まさか、人間の魔法に『神々の黄昏(ラグナロク)』が防がれるなんて……」

天照は、絶対の自信をもっていた神々の最終兵器が人間に防がれるのをみて、恐怖に慄いていた。

「これで我らは人間を制する術を失った。人間たちはすぐに高天原に攻めてくるだろう。我らはどうすればいいのだ……」

「肉体を持たない我々は、動くことすらままならない。グレイの体に乗って逃げ出しても、すぐに寿命が尽きて死んでしまう。我々はおしまいだ!」

嘆き悲しむ神々に、さらに悲報がもたらされる。

「あ、あれは、なんだ!」

地球を周回する月の衛星軌道上に、黒い点が浮かび上がる。それはどんどん拡大して、直径数キロメートルの巨大な穴となった。

その穴から、真っ赤に燃える炎の玉が出てくる。

「あれは、『神々の黄昏(ラグナロク)』?もしや、高天原にぶつけるつもりで……」

神々が驚いている間にも、火の玉は高天原が存在する場所ー月に向かって落下していく。

「迎撃しろ!」

月の表面から何百もの砲台が出てきて、一斉に光魔法ーレーザーを放つが、『神々の黄昏(ラグナロク)』はそのすべてを跳ね返した。

大気の薄い月上では、すべてが無音のまま、ただ静かにすべてを破壊する炎の玉が落ちてくる。

「くっ。非常事態だ、別の世界に逃げ出して……」

「無理です。異世界転移魔方陣の発動には、数時間かかります。とても間に合いません」

それを聞いて、素戔嗚も天照も絶望の表情を浮かべながら、迫りくる大破滅をただ見つめる。

そして『神々の黄昏(ラグナロク)』は、月の大空洞内に作られた「高天原」に落下し、すべてを押しつぶすのだった。


月の表面に、大爆発が起こり、無数の光-神々の魂が飛び散っていく。その光景は、はるか離れた地球からでも見ることができた。

「どうやら、高天原は完全に破壊されたようだな」

太郎はその光景をみて、ほっと息をぬく。月から放たれた光は、地球のあちこちに降り注いでいった。

「これで神々の魂は、人間として生まれ変わるだろう。その際にほとんどの記憶は消えてなくなる。すなわち、『神』という種族は完全に滅んだということだ」

そうつぶやく太郎の声には、かすかに憐憫が含まれていた。

「彼らの末路は、俺たちの未来かもしれないな。いずれはこの地球も滅びて、俺たちが住む場所もなくなる。その時、俺たちは新しい世界を求めて、異世界に転移していくのだろうか」

この宇宙は、無限に広がるパラレルワールドが存在していて、その中には滅びていった世界も数多存在する。それでも人の魂は存在し続けることを願って、世界を超えて転生をくりかえしていた。

無限に転生を繰り返しながら世界をめぐる魂の旅の行く末を考えると、太郎は疲れを感じてしまう。

「……そんなことを考えても、意味はないか。とりあえず、俺は今いる人と国を守ることを考えよう」

そうつぶやくと、太郎はシャングリラ島に戻っていった。

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