月読との対談
「長官、異常事態です」
宇宙航空研究開発機構「IAXA」では、想定外の事態に職員がパニックを起していた。
慌てて指令室にきた長官は、モニターに映った映像を見て愕然といる。
「なんだこれは」
そこには、地球周回軌道を回る巨大な塊が映っていた。それは単なる岩石の塊ではなく、宇宙空間に存在するチリやロケットの残骸などの宇宙ゴミを引きよせ、どんどん取り込んでいる。
すでに直径数百メートルの大きさに育っており、各国の人工衛星もその物体に引き寄せられるように周囲に集まっていた。
「この映像を送ってきた直後、我が国が打ち上げた人工衛星「みずほ」からの連絡が途絶えました。おそらく、あの物体に取り込まれたものとみられます」
「そんな……もしあの物体が落下してきたら……」
直径数百メートルの巨大隕石が落下したら、核ミサイルの数万倍の衝撃が地球を襲うことになる。その一発で、文明社会は崩壊することになる。
「太郎さまに連絡。魔光玉の使用許可を!」
「すでに許可はとれております。魔光玉からのレーザー、発射!」
日本上空に設置された魔光玉から、極太のレーザーが放たれ、巨大物体を貫く。様々のモノの集合体であった巨大物体は一撃で砕かれ、その内部が明らかになった。
「な、なんだあれは?」
物体の内部から現れたのは、黒光りする巨大な正立方体である。それはレーザーが当たっても砕かれず、巨大なモノリスのような威容を誇っていた。
一度は砕かれた岩や宇宙ゴミが、再び正立方体に引き寄せられて巨大な塊になっていく。
「だめです。あの物体からは巨大な引力が発せられていて、周りの物質を引き寄せているようです」
職員の声が響き渡る。
「そんな……魔光玉でも倒せないなんて……このまま大きくなったら、どうなるんだ?もしあれが落ちてきたら……恐竜を絶滅させた巨大隕石の落下と同じことが起こるかもしれん」
長官は、人類絶滅の危機を前にして、絶望のあまり立ち尽くすのだった。
宇宙航空研究開発機構「IAXA」から世界の危機を知らさせた日本国の低市首相は、太郎に助けを求めてシャングリラ王国に来ていた。
「危なかったな。事前に天使たちから「最終兵器」についての情報を得ていなかったら、詰んでいたかもしれん」
モニターに映し出された巨大物体の映像に、さすがの太郎も背筋が冷たくなる。
しかし、太郎はこの危機を予測していたようで、すぐに平静を取り戻した表情になった。
「太郎さまには、この事態を打破できる方策があるのですか?」
確実に人類滅亡クラスの災害となりえる危機に、絶望していた低市首相は、太郎の落ち着き払った態度に希望を見出す。
「ああ、対抗手段はある。だが、今回ばかりは、俺の力だけでは無理だ。だから国民全員の力も使わせてもらうぞ」
こうして、太郎による巨大落下物に対抗するための作戦が実行されるのだった。
その日、NHKと民放、ネットなどあらゆる放送期間を使ったドキュメンタリー緊急特番が放送される。
その番組のタイトルは、「未知との対談」だった。
まずはシャングリラ島に鎮座している捕獲された円盤が放送される。
「ごらんください。これが未確認飛行物体ー通称UFOと呼ばれる飛翔体です」
カメラは銀色に輝く船体を、じっくりと放送する。テレビの前の視聴者は、今まであいまいな写真でしかみる事ができなかった物体に、大いに興味が引き付けられ、食い入るようにテレビを見ていた。
「それでは、内部を撮影させていただきます」
カメラは円盤内部に入っていく、複雑な機械や怪しげなカプセルに、テレビの前の視聴者たちの興奮はいやがおうにも高まっていった。
一通り内部の放送が終わると、次は乗組員の遺体の放送に入る。
「みなさん。これが乗組員の死体です。いわゆる「グレイ」とよばれるこれらの生物は、解剖した結果、地球の重力下での生命活動には耐えられないのだとわかりました」
レポーターの案内により、グレイの詳細な身体データが公開される。確かに生物としては劣化した貧弱な体でしかないことを知り、侵略されるのではないかと恐怖を感じていた視聴者たちも少し安心することができた。
「それでは、唯一生き残った個体にたいする公開尋問を、太郎様が行ってくださいます」
場面が変わり、東京スカイツリーの展望台室が映りだされる。そこでは椅子に縛り付けられたグレイの一人と、太郎が対面していた。
「よし。傀儡魔法『マリオネット』解除」
太郎が指をはじくと、今まで虚ろだったグレイの目の焦点があい、意識が覚醒する。
気が付いたグレイがあたりを見渡すと、カメラの前でさらし者にされていた。
「おのれ!神たる我に無礼を働くとは」
「神ねぇ。とりあえず、お前の名前はなんだ?」
太郎は神を名乗る異形の者を前にしても、まったく慌てず冷静に聞いてくる。
「控えよ!我は日本神話に名高き三大神の一人、月読なり」
グレイはそう声を張り上げて威張るも、視聴者たちには何の感銘も与えられなかった。
「あれが神様?」
「なんていうか……もっと威厳がある姿だと思っていた」
スクリーンに浮かんだネットの書き込みを見て、太郎も苦笑する。
「どうやら、その貧弱な姿じゃ神様を名乗っても認められないみたいだな」
「くっ……」
グレイの姿をした月読は、悔しそうに唇をかむ。太郎の言う通り、グレイの姿では人々から畏敬を得られない。だから人間の前に出るときは、神を名乗るのにふさわしい優美な映像をつくりだして見せていたのである。
しかし、正体を暴かれてしまった今となっては、人々から投げかけられるのは敵意と軽蔑の視線のみだった。
「まあいいや。神ということは、お前たちはユグドラシル世界の神族か?」
「なぜ我らの世界のことを知っている」
自分たちが元いた世界のことを言い当てられ、ツクヨミは驚愕する。
「ああ。地獄神ハデスから聞いた。あちこちの世界で神を名乗って偉そうに人類を支配している異世界からの亡命者たちの元いた世界のことをな」
太郎は地獄を支配している神から聞いた話を、カメラの前で語り始める。
「その世界では、神々同士の最終戦争において、両陣営が最終兵器をぶつけあったせいで、地球ごと砕かれて消滅したんだっけ?バカな奴らだな」
太郎は、愚かな神々を嘲笑う。
「そうだ。我らは世界の管理者。二度とあの悲劇を引き起こさないように、各世界で魔法や科学技術が発展しないように管理しているのだ。貴様のような、神々にさからいうる力をもつ人間を生み出さないためにな」
月読はそういって、太郎を睨みつけるのだった。




