大韓朝国
「よし。腹も膨れたしケガも治った。頃合いだな」
そうつぶやくと、避難民の前で空に舞い上がる。
「おお……人間が空を飛んでいる」
「神だ!我らを救いに降臨してくださった」
空に鎮座して見下ろす太郎を前にして、避難民はその神々しさに思わず平伏した。
「私は神などではない。お前たちと同じ人間だ」
そんな声が降ってきて、民たちを困惑させる。
「だが、私は人間の王として、お前たちに救いの手を差し伸べることができる」
民たちは、固唾を呑んで太郎の言葉を聞き入る。
「私が王としてお前たちに施せるものは、「安全」と「生活」だ。いかなる文化、思想、主義、宗教をも強制しない。私に従うかぎり、お前たちは我が奴隷として自由に過ごせる」
その言葉は、宗教や主義主張による権力者の対立に巻き込まれて生活を奪われてしまった民たちの胸に響いた。
「主義主張による争いに囚われず、ただ一生懸命働いて家族との平穏な生活を望む者は、『門』をくぐるがいい。わが国の奴隷として受け入れよう」
その言葉と同時に、祖難民の前に巨大なゲートが出現する。
「俺は行くぞ。もうこんな国にいられるか!」
「我らが王の元で、平穏な暮らしを取り戻すんだ」
戦乱に巻き込まれて生命を脅かされてきた民たちは、先を争うようにゲートをくぐるのだった。
太郎の命令により、海外に進出してきた多くの企業がシャングリラ王国に移転してくる。
日本を実質的に支配している太郎の『自国ファースト政策」が諸外国にもたらした影響は、非常に大きなものだった。
「大統領。また日本資本の自動車部品工場が撤退しました。今後は部品の提供も拒否して、シャングリラ王国ですべて作るそうです」
「くそっ。なんでいきなり日本が我が国から撤退を始めたニダ!いままでいい付き合いをしていたのに!」
大韓朝国の李大統領は、いきなり日本から手のひらを返されて、喚きたてる。
「それは……やはり今までの反日活動や、宗教を使っての日本人からの富の強奪が問題視されたのではないでしょうか」
秘書官がおそるおそる告げるが、大統領は聞く耳を持たない。
「うるさい。日本は第二次世界大戦で我が国に敗戦した歴史があるニダ!永久に我々に従う義務があるニダ!」
そう叫び、どなり上げる。
(やれやれ……現実を正しく理解していないのか。すでに日本はシャングリラ王国に征服されて、属国となっている。今までの歴史も背景も、何もかも無視して一から他国との関係を作り直している途中なのだ。我が国が日本、そしてシャングリラ王国の利益にならないと思うと、今までの経緯などすべて無視して関係を解消するだろう。シャングリラ王国は、我が国と何のかかわりもないのだからな)
秘書官はそう思うが、頭に血が上った大統領には話が通じそうにないので黙っている。
「すぐ日本に行くニダ!怒鳴りつけてやるニダ!」
こうして、大統領自らが交渉に来ることになるのだった。
李大統領が乗った飛行機が、成田空港に到着する。
しかし政府の出迎えなど一切なく、それどころか国賓用専用ゲートすら使わせてもらえず一般客にまじって入国する有様だった。
「なんでウリが庶民にまじって日本にこなければならないニダ!」
「仕方ないでしょう。大統領としての入国許可がおりなかったのですから。こうやって旅行客として受け容れてもらうにも、大変な外交的労力を費やしたのですぞ!」
疲れた様子の秘書官になだめられ、大統領は仕方なく一般旅行客として入国ゲートを潜る。
「大使館に連絡して、すぐに日本国首相と面談するニダ!」
「あの……それは無理だと思います。そもそもアポイントもとらずに首相会談をするなど……」
「うるさい!日本など大韓朝国の弟に過ぎないニダ!兄が会いに来たのだから、腰を低くして迎えるのが当然ニダ!」
そういって、強引に首相官邸に向かう。面談の意思を伝えると、意外にもすんなりと奥に通された。
「ふむ。我が国に対する礼儀を忘れていなかったようニダね。頭を下げて我が国に対する投資を増やすなら、許してやってもいいニダ」
そう悦に入っているが、なかなか部屋の中によばれない。
いらいらしながら待っていると、部屋の中でだれかが交渉しているのが聞こえた。
「だから、そのタロウとかに会わせろ。奴がもつ引力操作技術は、我が国のこれからの宇宙開発に必要なんだ」
「残念ですが、あの技術は太郎様個人のものです。日本政府がいくら要請したところで、貴国に伝えることはないでしょう」
日本人らしい声は、強気に要求を突っぱねてきた。
「そんな態度をとっていいのか?我が国のジョーカー大統領に伝えれば、日本との同盟を解消するかもしれんぞ」
「その場合は仕方ないですな。そもそも、我が国にシャングリラ王国を従わせる力はない。むしろわが国がかの国の属国になっている状態です」
日本人らしき男は、堂々とそう言い放った。
「なんだその言い草は。野蛮なジャップの分際で!そもそも、日本はわがユナイテッド共和国の属国だったはずだ」
「状況は変わったのです。お引き取りください」
そうあしらわれ、ドアが開かれる。中から怒りに顔をそめた白人の男がでてきた。
「後悔するなよ。もし日本が他国から攻められても我が国は指一本動かさないからな。同盟は解消だ」
「好きになさい。ついでに我が国に常駐している基地もさっさと退去してほしいですな」
白人の男の脅しも、日本人である外務省の役人は眉一つうごかさない。男は唾を吐くと、そのまま出ていった。
(今のはユナイテッド共和国の大使?世界一の大国を怒らせるなんて、バカな奴ニダ。これで共和国の横やりを気にする必要がなくなったニダ)
内心でニヤニヤしながら、部屋の中に入る。
しかし、外務省の男は、先ほどの大使に接する態度とおなじように、李大統領にも冷たかった。
「我が国の低市首相は大変お忙しいので、要件だけ告げます」
そう一方的に告げると、一枚の紙を手渡す。それを読んだ李大統領は、茹でタコのように顔が真っ赤になった。
・日本の銀行からの大韓朝国への融資は、一方的な返済だけを受け取り、新規融資を停止する
・第二次世界大戦までの日本の大韓朝国への補償はすべて終了したとして。今後一切の補償は行わない
・日本に在住している在日大韓朝人の永久滞在が認められていたのを停止し、一年の期限経過後は通常の外国人と同じ扱いをする。
・日本の大韓朝国への送金停止
その紙には、以上のことが書かれていた。
「なんだこれは!日本のくせに生意気ニダ!」
興奮して殴りかかろうとする大統領を、秘書官は必死に止める。
「落ち着いてください。仮にも大統領が日本国の役人に暴力をふるったとなれば、国際問題になります」
「……ニダ」
怒りに顔を染めながらもなんとか自制し、大統領は椅子に座り込む。役人のほうは大統領の100倍も冷静だった。
「こ、こんな宣告をされたら、我が国は破綻してしまいます。特に最後の送金の停止。それだけはやめてください。我が国の貿易が停止してしまいます」
秘書官は必死になって役人に頼み込む。大韓朝国は国際的に信用がないので、現在は大韓銀行が日本に持っている信用枠の範囲内でしか外貨取引ができない。
それを外されてしまうと、貿易の決済ができなくなって大韓朝国の通貨価値がゼロに等しいものになってしまう。
必死に頼み込む秘書官に対して、役人は冷たく告げた。
「残念ながら、太郎様の命令ですので、交渉の余地はありません」
「ぐぬぬぬ!これは宣戦布告にも等しいニダ!太郎とやらに遭わせろニダ!さもなければ日本を滅ぼしてやるニダ」
「ご自由に。あなた方ごときが太郎様に対抗できるはずはないでしょうけど」
役人は薄く笑って、大統領の脅迫を無視した。
「日本はもう変わったということです。今までのように反日を表明しながら、援助と特権をもとめてくるような国と付き合う必要もなくなった。恨むのなら、過去の自分たちの行いを恨むのですな」
そういって、部屋から出て行ってしまう。
「ニダ!すぐに帰って戦争の用意ニダ!兄弟国の北句麗国と力を合わせて、日本にミサイルの雨を降らしてやるニダ!」
興奮した大統領は、そのまま大韓朝国に帰ってしまうのだった。




