利権
「この国の『貴族』は、領地をもらって地域を支配する『在地貴族』と、利権をもらって産業を支配する『法衣貴族』に分かれる。私は、外食産業分野の支配権を太郎君に認められ、料理店を開いたのだ」
それを聞いて、リポーターは首をかしげた。
「外食産業の利権?そんなものより、領地をもらってその土地の領主として好きに振舞ったほうがいいのでは?」
「そうでもないぞ。領主になると領地経営に莫大な費用がかかるし、責任も重い。それに対して「利権」は、もっているだけで莫大な富が転がり込んでくる」
そういって、土屋はニヤリと笑う。
「莫大な富とは?」
「シャングリラ王国にこの島の生き物をつかった料理店の開店を希望しても、まず私の許可が必要になるということだ。もちろんそれなりのショバ代、いやロイヤリティを払ってもらう。つまり、私はこの分野を自分の好きなようにコントロールできるのだ」
土屋は自分に与えられた特権に満足しているらしく、売りしそうな顔になった。
「もちろん、在地法衣問わず貴族の特権は一代限りのもので、子孫には受け継がれないがな。功績をあげた者への報酬としては十分なものだ」
そういうと、土屋はカメラにむけて言葉を発した。
「シャングリラ王国はできたばかりの国だから、日本ではありふれた店も今はまだない。寿司、ラーメン、焼き肉なんでも出店すれば、繁盛まちがいなしだろうな。起業したいものは、私の元にこい。夢と情熱を持つ若者を歓迎しよう」
それを聞いて、日々人にこき使われてつらい思いをしている料理人やホールスタッフの若者たちの目が輝いた。
その時、奥から三人の美女が出てきて、土屋を叱る。
「あんた、いつまでしゃべってんのさ!」
「さぼっちゃダメだべ」
「おとう、しっかり働いて稼ぐぜな」
彼女たちはいずれも10代後半から20代前半の美しい女性だったが、頭には角がついており、大阪のおばちゃんのような迫力をまとっている。
全員が虎柄のエプロンをまとっており、大きいおなかをしていた。
「す、すまん」
土屋は一言あやまり、厨房にもどっていく。その後ろ姿に家庭をもった中年男の悲哀を感じ取り、リポーターは思わず合掌するのだった。
土屋の店を出たリポーターたちは、タワーマンションの中を散策する。他にもいろいろな店が開いていて、多くの亜人族たちが利用していた。
「多種族メイドカフェ『ダーリン、逃がさないっちゃ』」
という看板が出された店では、多くの虎柄メイド服の少女が働いている。
「人間以外の種族のメイドカフェか。なんか新しいな」
興味をひかれたリポーターが入ってみると、中には鬼、ドワーフ、エルフ、獣人族の若くてかわいい少女たちが働いていた。
誰もが人間とは少しずつ違った容姿をしているが、違和感なく店内に溶け込んでいる。
「お兄ちゃん。オムレツを注文してほしいなっ♪」
幼い容姿のロリドワーフは、そうお客におねだりしている。
「この私が給仕をしてあげるんだから、光栄に思いなさい」
高貴な雰囲気をまとわせたエルフが、高飛車に客に接している。
「おい。俺と飲み比べしようぜ」
鬼族の大柄な少女が、客に絡んで酒を飲み交わしている。
「あたっ。また転んじゃったミュ。うちってドジだミュ」
獣人族の幸薄そうな少女が、上目遣いで客をみあげた。
いずれもあざとい演出だが、各種族の外見特性もあってお客には大好評である。
そんな中、リポーターは一番奥でにやにやしている眼鏡の貧相な人間を見つけた。
「ええと……もしかしてあなたも貴族ですか?」
「そうだぞ。このメイドカフェのオーナー、千儀鞍馬だ」
オーナーを名乗った千儀という男は、メイドたちを見て鼻の下を伸ばしていた。
「大盛況ですね」
「そうだろう。ぐふふ。太郎から「メイドカフェ」の利権をもらってこの店を開いたんだ。ああ、日本を裏切って奴についてよかったぜ」
リポーターのインタビューに答えている間にも、視線はメイドたちから離さない。
その時、奥から店長の名札を付けた大柄な鬼族の美少女が出てきた。
「ダーリン、またいやらしい目でメイドを見てて。浮気は許さないっちゃ」
そう言いながら、千儀をつかんで奥に連れ込もうとする。
しかし、次の瞬間千儀は黒い影になって逃げだしていった。
「じゃあな。これからナンパ……もとい、新しいメイドのスカウトにいってくる」
「待つっちゃ!もう、すっかり浮気者になって!」
大柄な美少女は影を追いかけて店を出ていく。あとに残されたリポーターは、あきれた目で二人を見送るのだった。
リポーターがさらにタワーマンションの中を取材していると『水走診療所 お姉さんが癒してあげる』という看板がでている店をみつけた。その看板には、白衣をきた美人な女性が、筋骨たくましい男をマッサージしている写真が掲載されている。
「もしかして、ここはそういう店なのか?ぐふふ、一度は見てみないとな」
興味をひかれたリポーターは、スタッフが止めるにも関わらず中に突撃していく。
中に入ったリポーターは、写真の美人お姉さんと対面した。
「はじめまして。私は女医の水走よ。何かご相談かしら」
色っぽい仕草で聞いてくるので、リポーターのテンションが上がっていった。
「じ、実は、最近体の調子がよくなくて……肩も凝るし腰も痛いし」
「それはいけないわね。ちょっと診てあげる。上着を脱いで」
言われるままに上着を脱いだリポーターの体に、水走は優しく手を触れた。
「ふむ……まるほど。肩の血流が滞っているし、腰には負担がきているわね。体液マッサージしましょう」
「体液マッサージ?」
この言葉をきいて、リポーターのテンションがさらに上がる。
別室に案内されたリポーターは、素っ裸になってうつ伏せの状態で台に上がっていた。
「これからどんなことされるんだろう。体液マッサージって」
ドキドキしながら待っていると、誰かが入ってきた気配がした。
「さっ、やってちょうだい「ヒール」」
水走の声が響くと、体の中に温かい何かが入り込んできて、肩と腰に集中する。続いて、優しい力加減でマッサージが行われた。
「うう……そこそこ。効くぅ」
あまりの快感に、リポーターは思わず声をあげそうになる。わずか五分間のマッサージで、リポーターの肩と腰はすっかり癒されていた。
「はい。これでもういいわよ」
「ありがとうございます」
そういって顔をあげたリポーターの顔が硬直する。彼の目の前には、照れたような顔をしたマッチョが立っていた。
「うふふ。どうかしら。マムが編み出した水の治療魔法を応用した体液マッサージは。全身の血のめぐりが改善されて、気持ちよかったでしょ」
そのマッチョは、そういってウインクする。
「さ、詐欺だぁ!」
リポーターは、思わず絶叫してしまうのだった。




