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「心臓」掌握

「こ、これは山田さま。ようこそお越しくださいました。あの……この度はどのようなご用件でしょうか」

必死に媚びた笑顔で揉み手をする頭取に、太郎は問いかけた。

「仮想通貨『アーク』の売れ行きは?」

「は、はい。あの事件から、密かに『アーク』を購入したいとの申し出が大企業や富裕層のお客様から多数でております」

頭取は、額に浮き出た汗をぬぐいながらそう答えた。

「ふむ。『アーク』を購入した者たちに伝えろ。近いうちに我々は日本の『心臓』に致命的なテロを仕掛けるとな」

太郎はにやりと笑って言い放つ。

「し、『心臓』とは、いったい……」

「それは言えない。しかし、その後は日本は我々と講和するか、それとも破滅するかの二択の選択を迫られるだろう」

それを聞いた頭取は真っ青になっていった。

「講和が成立した後は、わが『シャングリラ王国』は『アーク』を購入した者たちを厚く遇するだろう。しかし、最後までそれを拒んだものは、心の底から後悔することになるだろう」

そういって、魔王のような笑みを浮かべる。

「ぐずぐずしていると、日本円の暴落に巻き込まれて今まで貯めた資産がパーになるぞ、お前たちも顧客や取引先を没落させたくなければ、せいぜい頑張って『アーク』を売り込むことだ」

そういって太郎は去っていく。残された頭取は、必死に重要顧客に太郎の警告を伝えて『アーク』を売り込むのだった。

そして一か月後、『アーク』を購入した企業のオーナや資産家を集めて、太郎は言い放つ。

「お前たちは賢明な判断をした。俺たちが日本を征服した暁には、大企業や資産を持つ者たちにむけて相当額の供出金を求めることになるだろう。だが、事前に『アーク』を購入していた者に対しては、購入額に応じた手加減を加えてやろう」

それを聞いて、ほっとした表情をうかべる購入者たち。

「さらに言えば、これからシャングリラ王国の建国にあたってのインフラ整備や産業導入に、お前たちを優遇することもあるだろう。せいぜい今のうちに準備をしておくことだ」

それを聞いて、新たなビジネスチャンスや投資対象の匂いを資産家たちは嗅ぎつけた。

「我ら一同、喜んでご協力させていただきます」

日本を代表する企業や資産家たちの協力を、密かにとりつけることに成功する。

こうして、太郎の日本征服の準備がすべて整うのだった。


そして季節は夏に移り変わり、日本政府は数十年に一度のビックイベントを執り行う。

その日、日本銀行からは、全国の銀行に対して現金輸送車が送り出されていた。

真新しいジュラルミンケースに大量に積み込まれているのは、日本政府が発行する『新札』である。

この日の為に、数年かけて各国政府と協議を重ね、『新札』の特徴と見分け方のデータを周知し、旧札から新札ほの切り替えの第一歩を踏み出そうとしていた。

「ようやくこの日を迎えた。最近、やたらと市場が騒がしかったが、なんとか抑え込んで日本円の価値を保とうと努力していたは、すべてこの日を迎えるためだ」

日本銀行の総裁は、送り出されていく現金輸送車の列を見て感慨にふけっている。

『日本円』の旧札から新札への切り替えという大事業を成し遂げて、感無量だった。

達成感に包まれて外をみていると、いきなり現金輸送車の列が止まる。

「ん?何かあったのか?こんなめでたい日に事故など……けしからん。さっさと警察を呼んで処理してもらえ」

プンスカと怒りながら車両を見ていると、いきなり重い車体がひっくり返る。

「えっ?」

巨大な車両がまるで亀のようにひっくりかえされていき、数人の人影が日本銀行に入ってきた。

「大人しくしてもらおう。たった今から、日本銀行は俺たちが占拠させてもらおう。新札の運び出しはすべて中止だ!」

先頭に立つ若い男は、史上最悪と言われた日本の公敵、山田太郎である。彼はシャングリラ王国の国旗を掲げながら堂々と宣言するのだった。

日本銀行を占拠した太郎は、その奥に設置された新札を発行する際に押印される日本銀行の総裁印章を取り上げる。

「ふむ。これが新札の印章か。これさえあれば、我々の手でいくらでも紙幣を刷ることができるな」

大量に用意されていた新札や、押印と札の審議を判別する鑑査機械をすべて亜空間収納庫に格納し、太郎はさらに奥の地下大金庫室へと進む。

日本銀行の地下大金庫室には、日本が金本位制から管理通貨制度に変更したとき回収した小判や金貨が山のように積まれていた。

「日本の金保有量は公的には800トン程度といわれているけど、戦前には一万トンを超えていたと聞く。その差額は、こうやってずっとしまいこまれていたんだな。日本の戦後復興費用に半分くらいは使われたみたいだけど、それでも5000トンはあるな。全部いただこう」

亜空間格納庫を開いて、すべてを吸い込ませる。他にも大金庫に保管されていた宝石や刀剣、美術品などの国宝もすべて奪っていった。

「よし。これで日本の富の源泉は奪った。このことを公表するだけで、日本円の裏打ちになる『黄金』が失われたと世界中に判断され、紙幣はただの紙切れになるだろう。念のため別動隊にも動いてもらっているしな」

そういって、太郎は高笑いするのだった。

そして同時刻、紙幣を作っている独立行政法人国立印刷局も襲撃を受ける。

「な、なんだね君たちは!」

脅えた様子の長官に、『異還士』の別動隊を任させた坊主刈りの中年男、土屋剛はにやりと笑って要求する。

「印刷局は私たちが占拠させてもらった。とりあえず、管理コンピューターのV-205のデータを提供してもらおう」

そう言われて、局長は真っ青になる。それは、新札の材質・長さ・暑さ・透かしその他200か所に及ぶ未公表の詳細な特徴が記されたバックアップデータだった。それを奪われたら、好きなだけ本物の紙幣を発行されてしまうことになる。

「そ、それを取られたら、日本が終わってしまう……」

「そうさ。私たちの手で日本にとどめをさしてやるのさ。日本政府に伝えてもらおう。『金銭』という社会の血液を送り出すポンプとなる『心臓』は、我々が完全に握りこんだとな」

そういって、土屋はニヤリと笑うのだった。


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