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魔法手術

「闇路ゆみこ様。出動命令が下されました。現在、日本を襲っているテロリストたちと戦ってください」

そう言われても、ゆみこは病室から動こうとしなかった。

「私は忙しい。テロリストを相手にしている場合じゃない」

「……しかし……あなたじゃないと、異能を持つテロリストたちに対抗できません」

秘書はなおも説得を続けるが、ゆみこは頑として動こうとしなかった。「

「うるさい。私にはそんなことしている暇なんてないの。『闇氷』」

ゆみこが魔法を振るうと、秘書の足元が凍り付いて動けなくなった。

「あんたたちに協力したのは、お母さんを入院させて最先端の治療を受けさせてくれるって話だったから。山田太郎の逮捕には協力した。もしまだ私に協力させたいなら、早くお母さんの癌を治して」

「……そういわれても……」

責められた医者は、自分の無力さを痛感して歯噛みする。彼は癌治療では日本最高の技術を持つ若き天才医者とよばれた者だったが、それでもゆみこの母親を治すことはできなかった。

「……ゆ、ゆみこ……」

「大丈夫だよお母さん。私がついているから」

ゆみこは必死に闇魔法で痛覚を麻痺させ、母親を癒そうとしている。それにもかかわらず、母親はどんどん衰弱していった。

その時、病院が騒がしくなる。

「テロリスト『異還士』がやってきたぞ」

「逃げろ!病院が破壊されるぞ」

そんな騒ぎが伝わって来て、一気に病院がパニックに包まれる。

しかし、ゆみこはそんな騒ぎなど放っておいて、ひたすら母親の苦痛を取り除くために麻痺魔法をかけ続けていた。


人気の無くなった病院で、ゆみこはひたすら母親の看病を続げる。気が付くと、ほとんどの医者がいなくなっており、秘書も逃げ出していた。

「あなたは、逃げなくていいの?」

ゆみこは、最後まで傍らに残っていた若い医者に聞く。

「医者が患者を見捨てて逃げるわけにはいきません。たとえ無力でも、患者に寄り添うことが医者の使命だと思います」

若い医者は、そういって首をふる。彼の誠意を感じ取り、責め立てていたゆみこも反省した。

「……今までずっと責めていてごめんなさい。あなたのせいじゃないのに」

「いえ。僕の力不足です。ああ、せめて患者の出血を抑え、体力が保てる方法があるなら、手術に耐えられるのですが……」

医者がそう嘆いた時、白衣をきた美女が病室に入ってきた。

「あら?まだお医者さんが残っていたの?この病院は私が占拠したわよ」

そう告げてくるのは、見覚えのない女医だった。

「あなたは?」

「一応、『異還士』の一人、水走雫よ」

ドヤ顔で告げる女医に、若い医者は驚愕した。

「ひ、ひいっ。あなたがテロリスト?」

「そうよぉ。凶悪で邪悪な美人テロリストよ。ここにいたら巻き込まれるから、早く退避なさい」

そう退去を促してくるが、ゆみこは首を振った。

「そう。どうでもいい。私たちにかまわないで」

「あなた天使のエンジェルダークネスでしょ。私たちテロリストから、日本を守る正義の味方じゃないの?」

全く戦う気がないゆみこに、水走は困惑してしまう。

「どうでもいい。私はあんたたちと戦ってる暇なんてないの。政府に協力したのも、お母さんの癌の治療をしてもらいたかっただけ」

ゆみこはぷいっと水走から顔をそむけると、再び母親の看病に戻る。その様子をみて、水走は事情を察した。

「苦しそう。なんで治してあげないの?」

今度は若い医者に向き直って責めるが、彼は無念そうに首を振った。

「手術して癌を取り除こうとしても、患者の体力がもちません。ただでさえ苦痛のあまり消耗が激しいのに、手術したら大出血を伴うので命の危険があります」

それを聞いて、水走は考え込む。

「つまり、出血を抑えて体力を回復させつづければ手術自体はできるのね」

「……そうですが……」

頷く若い医者に、水走は告げた。

「すぐに手術の準備を。私も手伝うわ」

病院を襲撃にきたテロリストが手術を手伝うと聞いて、若い医者は困惑するのだった。


「私が助手を務めるわ。ええと……」

「あ、僕は狭間九朗(はざまくろうです」

「……なんか、どこかで聞いたような名前ね」

有名な漫画の神さまが書いたマンガの主人公みたいな名前に、水走は苦笑する。

「両親がある医療マンガのファンで、それにあやかって名前を付けたんです。友達からは、ブラックジョーカーなんて言われてましたよ」

九朗も苦笑いを浮かべながら、てきぱきと手術の準備をした。

「私も協力する」

隣には、術衣をきたゆみこもいる。

「では、術式を説明します。まずゆみこちゃんはお母さんを眠らせて麻酔をかけ続けていて」

「うん。『闇催眠(ダークヒュプノス)』」

ゆみこは細心の注意を払って、母親に睡眠魔法をかける。瞬く間に母親は眠りに落ちていった。

「私は患者の出血を抑え、体力を回復し続けるわ。『体液治療(ウォーターヒール)』」

水走が水の治療魔法をかけると、衰えていた患者の身体に生気が戻った。

「おお……血圧とバイタルが正常値にもどった。これが『魔法』?なぜ現代社会は、この技術を医療にとりいれないんだ?多くの人を救えるのに」

計器をチェックしていた狭間は、その劇的な効果に驚く。

「あとはあなたの腕次第よ。出血は私が水魔法で血流をコントロールして抑えるわ。その間に患部を切除して」

「お任せください。全力で救って見せます」

狭間は奮起して、難手術に取り掛かるのだった。


八時間にも及ぶ大手術の結果、ついにすべての癌を取り除くことに成功した。

「お母さん!」

母親にすがりつくゆみこを見て、狭間は満足の笑みを浮かべる。

「あなたの魔法はすばらしかった。手術にどうしても伴う出血が、ほとんど抑えられたおかげで、患部の切除がやりやすかった」

「あなたの腕も大したものよ。さすが天才と呼ばれた医師だけはあるわね」

狭間と水走は、互いの技能を認め合う。こうして、現代医療と異世界治療魔法が組み合わさった史上初の手術が成功したのだった。

手術室からでて病室に移動した所で、水走の胸元の無線に通信がはいった。

「もしもし。あら、もう作戦は終了したの。それじゃあ帰るとしましょうか」

「転移のペンダント」を掲げて戻ろうとする水走に、狭間が声をかけた。

「待ってください。お願いします。僕もつれていってください。あなたの治療は、現代医学をはるかに超えていました。僕はそんなあなたの元で、『魔法』を学びたいのです」

「……いいわ。わがシャングリラ王国はくる者拒まずよ、あなたを歓迎するわ」

水走は笑みを浮かべて、狭間の手をとる。

「ゆみこちゃんも、日本が嫌になったらお母さんを連れてシャングリラ王国に逃げてきなさい。もしかしたら、戦わなかった事を日本政府に責められるかもしれないわよ」

「……わかった。お母さんを治してくれてありがとう」

ゆみこは感謝の涙を浮かべて、水走に礼をする。彼らの姿は病院から消えていった。


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[一言] 「おお……血圧とバイタルが正常値にもどった。これが『魔法』?なぜ現代社会は、この技術を医療にとりいれないんだ?多くの人を救えるのに」 九朗君。個人的な推察でしかないんだが、魔法があったら医…
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