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キャスリング

激しい浸食作用で、ついに土屋の身体を覆っていた銀色の鎧が崩れ落ちる。

「どうやら…私の負けのようだな」

「そういうことだ。大人しく降伏するなら命だけは助けてやってもいいけど」

オーシャンは、余裕たっぷりに降伏を薦める。しかし、土屋はそれを受け入れようとしなかった。

「キミは勘違いしている。私たちは個人で戦ってはいない。チームで作戦を遂行しているんだ。だからわざわざ相性が悪いキミと戦う必要もない」

「へえ。でも、逃げられると思っているのかい?」

オーシャンは水を固めた刺突剣をつくり、土屋の喉元につきつける。

「それが逃げられるのさ。棋駒二尉、頼む」

「わかった」

胸元の無線から、渋い男の声が聞こえてくる。

「『配置換え(キャスリング)』

次の瞬間、土屋の身体が白い霧に覆われ、その姿が消えていった。

白い霧が晴れると、何者かの姿が現れる。

「……誰だい。キミは」

「俺は千儀鞍馬。ここからの相手は俺に任せてもらおう」

オーシャンの前に現れた千儀は、そういってポケットから取り出したエリクサーを飲む。傷だらけだった身体が一瞬で回復していった。

「どんな手品を使ったのか知らないが、海の近くで僕に勝てると思っているのかな?」

オーシャンは余裕の表情で、煽ってくる。

「俺にとっては、海も陸も関係ないさ。『影潜み』」

千儀の身体が黒い一反木綿の姿になっていく。それをみて、オーシャンは笑いを浮かべた。

「どんな能力かと思えば、ただ身体が薄くなるだけか。そんなもので僕に対抗できると思っているのかい。『スカイフィッシュ』」

再び海水で全身刃の魚を作って、千儀を襲わせる。

「はははは!ビリビリに引き裂いてやる」

千儀の身体に刃物魚が突撃するのを見て、オーシャンは勝利を確信する。

しかし、襲い掛かった魚たちは、一反木綿に傷一つ与えられずすり抜けた。

「なッ?」

「残念だったな。俺の『影』に実体はない。俺を傷つけられるのは、同じ空間魔法を使う太郎か、もしくは光魔法の使い手だけだ」

一反木綿の口が、半月の形に開く。

「それ以外の相手なら、俺はほぼ無敵なのさ」

オーシャンが動揺した隙に、千儀は彼女の身体に巻き付いて締め上げる。必死に引きはがそうとするが、影をつかむことはできなかった。

「くっ……スターの光魔法だったら、キミなんか……」

「だから逃げてきたのさ。別に恥ともおもわん。俺たち兵士は個人的な勝利など求めない。チームとしての目標達成に貢献できればそれでいいのさ」

オーシャンの首ががくりと落ち、意識を失う。潮風かおるの姿に戻っていった。

「さて、このじゃじゃ馬ねーちゃんにお仕置きするか」

千儀は、かおるの力を封じる処置を施すのだった。


エンジェルスターと戦っていた千儀が消え、その代わりに坊主刈りの中年男が現れる。

「なんですの、あなた」

「『異還士(リターナー)』のリーダー、土屋鋼だ。お嬢さんの相手をさせてもらおう」

坊主刈り頭のヒゲ中年は、堂々と名乗りを上げた。

「あなた、どこから現れたの?さっきまで戦っていたやつは?」

「我々の仲間に、『軍師』レベル40のメンバーがいてな。彼は大変面白い能力をもっている」

土屋は、苦笑しながら説明した。

「一定エリア内の味方の位置を入れ替えることができる転移能力をもっているのだ。異世界では、その能力で集団戦において大いに能力を発揮したらしい」

敵の位置さえ認識していれば、味方を駒のように入れ替えて最大限の力を発揮できる位置に配置できる。まさに軍を動かす軍師ともいうべき能力だった。

「相性の悪い相手と当たった時のために待機させていたんだが、正解だったな。『鏡鋼装(ミラークロース)』」

そういうと、土屋の身体が土魔法で作り出した銀色の鎧に覆われていく。しかし先ほどと違って、その上からさらにガラス状の結晶が覆われていった。

「ふん。そんなもの!」

余裕たっぷりに周囲にきらめく星からレーザーを放つ。

しかし、スターが放った光魔法は、すべて鏡面加工された銀色の鎧に撥ね返された。

「えっ?」

「無駄だ。君と同じ光魔法を使うルイーゼさんにも協力してもらって、対抗できる鎧をつくりだした。これが『鏡鎧(ミラーメイル)』だ」

絶対の自信をもっていた光魔法が跳ね返されて、スターはどうしたらいいかわからなくなる。

その隙に土屋は重力魔法を放った。

「ぐはっ。う、動けませんわ」

天使の翼がへし折られ、体にかけられた高重力のために一歩も動けなくなる。

「能力には相性というものがある。それを踏まえて戦いの相手を選ぶのが戦術というものさ。君たちにはそれがなかった。勝敗を分けたのはその差だ」

「くっ、くぅぅぅぅ」

敗北したスターは、悔しそうに膝をつく。そんな彼女の前で、土屋は真っ黒い呪符をとりだした。

「これは「封魔の呪符」という魂に作用する呪いのアイテムだ。これを貼りつければ、相手の魔力を封印することができる」

それを聞いて、スターは恐怖を覚える。

「や、やめなさい。魂に呪いをかけられたら、無力な人間として一生を過ごすことになる。それなら、いっそ殺しなさい」

その言葉に、土屋は静かに首を振った。

「我々は兵士だが殺人者ではない。相手を無力化させられれば、目的は達せられる」

そういって、容赦なくスターに札を押し付ける。真っ黒い呪いが発動して、スターの首に入れ墨のように貼りついた。

同時に、光明寺さやかの姿に戻っていく。

「これで君はただの人間だ。今後はこの戦から離れて普通の人間としての生活にもどるがいい」

「……」

土屋の言葉に、さやかは声を殺して泣き崩れるのだった。




国立先進病院

ここは永田町の地下に作られた、日本の最先端医療が行われている病院である。健康保険が一切使えないすべて実費の高度先進医療が行われていて、患者は資産100億を超える超大金持ちばかりだった。

その医療は一般に受けられるものとは全くレベルが違い、金さえかけることができればどんな難病も治ると言われている。

そんな病院の一室で、闇路ゆみこは母親の担当医に食って掛かっていた。

「ここは日本最先端の治療を行える病院なんでしょ。お母さんを治してくれるっていったじゃない」

そう責められた担当医は、困惑の表情を浮かべる。

「無理です。あなたのお母さんの癌進行度は、ステージⅣに達していて、全身に転移しています。それに全身を襲う苦痛のせいで、体力も消耗していて手術もできない状況です」

まだ若いその医者は、悲痛な表情でベットに横たわる中年女性を見つめる。彼女は癌による苦痛のあまり、うめき声をあげて全身を震わせていた。

「お母さん!。『闇麻痺(ダークパラライズ)

ゆみこは母親の体に手を当て、『苦痛』の電子信号が脳に伝わるのを阻害する闇の麻痺魔法を使う。身体の痙攣は収まったが、うめき声はやまない。

「こうやったら、治療を諦めて苦痛を取り除くための緩和ケアに移行するしか……」

「いや!、お母さんのケアは私がする。だからなんとか助けて!」

ゆみこは駄々っ子のように首をふる。そんな時、岸本首相の秘書がやってきた。


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