最悪の相性
土屋は、巨大な首都経済圏の物資を支える東京港の港湾倉庫にやってきていた。
「ここを破壊すれば、東京都の物資網は寸断される」
重力魔法を振るって港を破壊しようとするが、その前にヘリコプターがやってくる。
「ここまででいいよ。そらっ!」
さっそうと飛び降りたのは、中性的な顔をした男装の麗人、潮風かおるだった。
「邪悪なテロリストめ。僕が成敗してやる。『エンジェルウィング!クロースアップ!』」
かおるが羽をとりだすとその身体が光につつまれ、青い髪をした天使が現れた。
天使は翼をはためかせ、土屋の前に飛んでくる。
「おじさん、あんたの相手は僕がしよう。僕の名前はエンジェル」
「ふむ。ではまずは試してみよう。「グラビティ」」
いきなり翼に重力がかかり、エンジェルオーシャンは墜落していく。なすすべもなく叩きつけられるかと思われた時、海面がもりあがり、オーシャンの身体を包んで受け止めた。
「ふう。いきなり何をするんだい。まだ名乗りをあげている最中だったのに」
プンスカを抗議するオーシャンを相手にせず、土屋は考え込む。
「ほう、重力魔法が通じないみたいだな」
「当然だ。魔力が込められた海水で周囲を覆えば、土魔法の重力は遮断できる」
オーシャンは、土屋の前で自慢そうに胸をそらす。
「なるほど。キミの魔法は海魔法といったところか。大地の力を扱う土属性の私にとっては君は天敵だということだな」
「そういうわけだ。ここは海の近く。僕の力が最大限に発揮できる」
オーシャンから魔力かはなたれ、土屋は周囲が海水に満たされたかのような息苦しさと動きにくさを感じる。反重力が弱まって落下しそうになり、慌てて土魔法をつかって足場を作った。
「無駄だ。すでにこの周囲は僕の『疑似海』になった。さあ、海の藻屑となるがいい。『スカイフィッシュ』」
オーシャンが腕をふると、魔力が全身刃で覆われた魚に代わっていく。その魚たちは、集団で土屋に襲い掛かっていった。
「くっ」
土屋は紙一重で交わすが、魔力でできた魚の攻撃は止まらない。
「ほらほら、そんな小さな足場で僕の攻撃を避け続けられるかな」
その言葉どおり、土屋はかわしきれずいくつもの傷を負った。
「ならば、『鋼装』
土魔法を使って自らの体を銀色の鎧で覆い、刃魚の攻撃から身を守る。しかし、オーシャンはそんな彼を嘲笑った。
「無駄だよおじさん。僕の海水はたとえ金であっても浸食する。『潮侵』」
土屋をとりまく海水の塩分濃度が高まっていく。銀色の鎧はあっというまにさびてボロボロになっていった。
「バカな……チタンスライムに匹敵する強度をもつ私の鎧が!」
「これでチェックメイトだね。ふふ、やはり正義は勝つんだ」
絶対的な優位を感じて、高笑いするオーシャンだった。
千儀鞍馬三尉は、首都圏の電力の三割を担う房総半島に作られた東海原子力発電所にやってきていた。
「よりによって、こんなやべえ場所に派遣されるとはな」
千儀はものものしい警備の原子力発電所を見て苦笑する。ここは最重要警戒施設として、厳重な警備に置かれていた。
「まあ、影に潜むことができる俺には無駄なんだけど」
千儀は自らを影にすると、原子力発電施設にしのびこむ。たやすく奥の制御施設に入り込むことができた。
「この施設は、俺たち『異還士』が制圧した。死にたくなかったら、俺に従え。とりあえず、通常の管理を継続しろ」
「は、はいっ」
あっさりと原発を制圧した千儀は、作業員たちに命令する。彼の力に恐れをなした作業員たちは、おとなしく管理作業に戻った。
「さて、これからどうするか、原発を取引材料に太郎の解放を迫っても、政府が拒否したらどうすればいいんだろう。さすがに本当に破壊するわけにはいかないし」
いくら凶悪なテロリストの仲間といっても、理性はある。原発を破壊してメルトダウンを引き起こすなど、そこまでする気はなかった。
考え込む千儀の前に、バサバサという音がひびいて、金髪のゴージャスな天使が現れる。
「おお、天使さま。俺たちを救いにきてくれた」
勝手に盛り上がる作業員たちを無視して、天使は千儀に笑いかけた。
「そんな躊躇をするなんて、やっぱり人間はヘタレね。遠慮なんてしないで派手に爆発させれば面白いのに」
傲慢にそう言い放つのは、体を金色の光で覆った天使、エンジェルスターである。
「意外な言葉だな。お前は人間を守る正義の味方じゃないのか?」
「地をはうムシケラなんて、どうなろうがどうでもいいわ。」
それを聞いで、作業員たちは驚愕した。
「そ、そんな!正義の味方だとおもっていたのに」
「勝手にきめないで。私は自分に被害がなく楽しく暮らせればいいの。むしろ世の中におきる災害や戦争はいいエンターティメントだわ」
そういうと、エンジェルスターは腕をふるう。彼女の周囲に現れた星から光が発せられ、制御室の一部の機械を壊した。
それを見た作業員は、慌てて修理にとりかかる。
「これじゃ、どっちがテロリストかわからんな。それ以上の破壊はやめてもらおう」
「おもしろい。だったら止めてみなさい」
こともあろうに制御室で、千儀とスターの戦が始まってしまう。作業員たちはどっちを応援していいかわからず、ただおびえて戦いを見守るのだった。
「『影潜み』」
千儀の体がどんどん平べったくなっていき、黒い一反木綿のようになる。
そのままスターの身体に巻き付き、締めあげた。
「くっ……苦しい」
スターのゴージャスな顔と肢体が、苦悩にゆがむ。引きはがそうとした手は、虚しく影を通り抜けた。
「無駄だ。影に実体はない。このまま締め落として捕虜にしてやる」
勝利を確信して、千儀があさげりの声をあげる。
しかし、次の瞬間苦悶にゆがんでいたスターの顔に、笑みが浮かんだ。
「……ふふ、こんなものなの?それじゃあ、次は私の番ね」
スターの周囲にきらめく星が浮かび、光が発せられる。
「影は光の前に消えるわ。『スターシャイン』」
次の瞬間、星から放たれた光が、一斉にスターを締め付ける影に向かって放たれた。
「ぐはっ」
物理的な力では触れることすらかなわない影が、光によって穴だらけにされていく。千儀が変身した影の傷ついた場所から、影の血が吹き出した。
みるみるうちに影が厚みを帯びていき、人間の姿に戻る。
「まさか、俺の技が破られるとは」
「残念ね。影の天敵は光。あなたは私には絶対に勝てないのよ」
傷だらけの千儀を見て、スターは勝利を確信した。
「くっ。隊長が言っていた、最悪の相性の天使とはあんたのことか。いきなり当たるなんて、ついてねえな」
千儀は、自分の運の悪さを後悔する。
「どう?今跪いて私の奴隷になるなら、命だけは助けてあげるわよ。跪いて、『女王様、愚かなこの豚の命ばかりはお助けください』と懇願しなさい」
スターは千儀の前で、腕を組んで仁王立ちする。
しかし、千儀は首を振って拒否した。
「残念だけど、俺たちには降伏という選択肢はない。太郎の奴に組した時点で、日本に許される訳がないと知っているからな」
千儀は、傷ついた顔に死ぬまで日本に逆らうといった覚悟を浮かべた。
「そう。ならばどうするのかしら」
「こうするのさ」
千儀は胸元に仕込んだ無線にむけて、助けをもとめる。
「サブリーダー。すまねえ。最悪の相手に当たっちまった。チェンジで」
「情けないですね。それでも男なの?」
みっともなく仲間に助けを求める千儀を、スターは見下した目で見つめるのだった。
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