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敗北

魔力を弱められ、伝説の武器を失い、バリアーまで破られた太郎の前に、エンジェルクロノスが立ちはだかる。

「いい気味ね。今どんな気持ち。今までさんざん好き放題してきたあなたに、正義の鉄槌を下してあげるわ」

そんなクロノスを、太郎は皮肉な目で見つめる。

「よってたかって一人をボコボコにして、優勢になったら最後にしゃしゃりでてとどめをさす正義の味方か。卑怯って言葉はお前のためにあるんだろうな」

「うるさい。悪の化身め。正義の味方である、私たちが成敗してあげるわ。『時間逆行(ロールバック)』」

クロノスの手に持つ杖から赤色の光が発せられると、太郎のレベルが下がっていく。

「な、なんだこれは」

「逆行魔法よ。あんたの身体を力が宿る前の時点まで戻してやる。そうして無力な人間になってから、じっくりいたぶってやるわ」

クロノスは楽しそうな顔になって、そうつげる。太郎の顔に初めて焦り浮かんだ。

「くそっ!俺の力を舐めるな」

死に物狂いの力を振り絞り、亜空間格納庫から『次元剣』をとりだして、一閃する。

「きゃっ」

ふいをつかれたエンジェルたちは、慌てて太郎から離れる。空間に激しい衝撃波が伝わり、太郎を覆っていた空気の渦と、魔力を弱めてた闇の氷霧が一気に断ち切られた。

「……くそっ。まさか僕の力が破れるとは」

「これが魔王の力なの?」

「……だめ。これ以上抑えきれない」

太郎の本気をみて、クロノスを除く三人の顔に、怯えが走った。

しかし、クロノスは彼女たちを励ました。

「大丈夫よ。私たちにはみんながついている」

カメラの方を振り向いて、今まで固唾をのんで戦いを見守っていた国民に呼びかける。

「みんな!私たちに力を貸して!」

それを聞いた視聴者たちは、心の中で天使たちに声援を送った。

「頑張れ!」

「私たちを脅かす、悪の魔王を倒して!」

天使のピンチに、皆の心が一つになる。

彼らの願いは魔力となり、テレビに差し込まれているカードを通じてスカイツリーに集まっていった。


スカイツリーの先端が輝き、膨大な魔力が展望台に降り注ぐ。

「これは……なんだ?力が満ちてくる」

「これが、みんなの愛と正義と友情の心?」

「……あったかい」

天使たちは、膨大な魔力を注入されて恍惚としていた。

逆に太郎の力は弱められて、その動きもどんどん鈍くなってくる。

そんな太郎に、クロノスは見下した笑みを向けた。

「いくらあんたのレベルが99だといっても、日本国民全員から集めた魔力をもってすれば、制するのはたやすいわ。なんのためにテレビ放送までして、私たちの正義をアピールとおもっているの」

クロノスの高笑いが響き渡る。

「まさか、テレビをみていた視聴者から、魔力が送られてくるのか!」

「そうよ。それが電波塔であるスカイツリーを戦場に選んだ理由」

スカイツリーには、双方向性のデータ通信につかえるテレビに差し込まれているカードを通じて、国民たちが潜在的にもっている微量の魔力を集める機能がついている。これが日本政府が張った、太郎を捕らえるためのワナだった。

「日本を舐めすぎたわね。本気になったら、魔王の一人や二人、簡単に始末できるのよ」

その言葉どおり、太郎はもう動けなくなるほど衰弱していた。

「ふふっ。いい気になっていきりちらして満足したかい?そのツケを払うときがきたようだね」

「思い上がっていた天罰が下ったのよ」

「……変なおじさん。これで終わり」

他の三人も、強化された力で太郎を押さえつけている。太郎は自らの敗北を悟った。

「……どうやら、俺の負けのようだな。殺せ」

すでにエンジェルクロノスー夏美の力で、太郎のレベルは1にまで下がっている。太郎は逃れられないと覚悟を決めた。

「ほんと、復讐者気取りで八つ当たりして迷惑かけて、バカじゃない?あの偽結婚式は、アイドルである私にストーカーして付きまとっていたあんたを諦めさせるためのものだったのよ。ああでもしないと、勘違い男のあんたは諦めないでしょ。クラスメイトたちは私に協力してくれていただけなのに、みんなに迷惑かけて」

「……くだらない。お前の中ではそんな妄想が真実になっているんだな」

「なんですって!」

夏美は怒りのあまり、ナイフを取り出して殺そうとする。元の姿に戻った三人は、慌てて止めに入った。

「待てよ。人殺しはまずい」

「そうよ。全国放送中なのよ」

「……あとは政府のおじさんたちに任せる」

そう言われて、夏美はしぶしぶナイフを収める。同時に、警察官たちが展望台になだれ込んできた。

「ふん。まあいいわ。これからあんたは全国民の前で裁かれて死刑になるでしょうね。いい気味だわ」

「……ああ。失敗した反逆者は処刑されるのが当然だ。おとなしく裁きをうけるさ」

全国民が見まもる中、無力となった太郎は連行されていくのだった。


スカイツリーの太郎と天使たちの戦いは、テレビ放送を通じてシャングリラ島の住人たちも見ていた。彼らの王である太郎がなすすべもなく天使たちに敗北して捕まったので、見ていた者たち驚愕する。

「まずいよ!タローにぃを助けにいかないと」

文乃は焦った様子で助けに向かおうとする。それを美香とルイーゼが慌てて止めた。

「このまま行っても太郎さんを助けられないわ」

「美香さまのおっしゃられる通りです。あの「天使」には、この世界の神の恩寵が感じられますわ。悔しいけど私たちでは対抗できません」

そう諭されて、文乃も少し冷静になることができた。

「……でも、それじゃどうやったらタローにぃを助けられるのか……」

「こうなったら、戦いのプロの方々に相談してみましょう」

ルイーゼは、元異世界管理局の士官たちを集める。個人的な復讐のため一人で戦いに赴き、罠にはまったと知って、元リーダーであった土屋は顔を顰めた。

「国王にふさわしい力とカリスマ性はもっているが、思慮のほうはまだまだだな。いや、考えてみれば太郎君は異世界での戦いの経験も一年しかないと聞く。政略や戦略の分野では、まだまだ未熟なのだろう」

その言葉に、長年軍での経験を積んだプロの兵士である他の士官たちもうなずく。

「だが、我々には彼が必要だ。すでに我々は日本を裏切った身。帰る場所などどこにもない。彼には是が非でも新たな国の建国を成し遂げてもらわねばならん」

再び全員が頷く。もはや後戻りはできない立場である彼らには、太郎という王が必要であった。

「よし。太郎君救出作戦を練るぞ」

土屋は士官たちの意見を聞き、作戦を立案する。それは天使たちを別部隊が引き付けて、その隙に精鋭部隊で太郎が捕らえられている警視庁を急襲するといったものだった。

「まずは士官たちが複数の場所でテロを起こして天使たちを引き付ける。彼女たちは四人しかいないので、移動や鎮圧に時間がかかるだろう」

テロを起す側が有利な点に、状況の主導権を握れるということがある。同時に複数の場所でテロを起せば、異能をもつ異世界帰りの士官たちに唯一対抗できる存在である天使たちは分散せざるを得ないだろう。

「その間に、精鋭部隊で太郎君が捕らえられている警視庁に救出にいくのだが……問題が一つある」

土屋がテレビをつけると、警視庁の様子がテレビに映し出される。その周辺は陣地が敷かれており、警官のみならず兵器をもった自衛隊の部隊も警備に参加していた。その装備も、アサルトライフルのみならず、ハンドミサイルやロケットランチャー、無反動砲や果ては最新式戦車まで用意されていた。

「なんなのこれ。東京のど真ん中で戦争でもするつもりなのかな」

「相手はその覚悟を決めている。それだけ異能の力の脅威が身に染みているということだな。あんなところに飛び込んでいったら、少々の力では対抗ではない」

土屋は悔しそうにつぶやく。さすがに兵器が待ち構えている所にのこのこ出ていったら、異能の力を振るうまでもなく粉々にされてしまうだろう。

「太郎君のような近代兵器に対抗できる圧倒的な力で、兵器の包囲陣を突破できればいいんだが……」

土屋がそうつぶやいたとき、三人の側妃たちに寄り添っていた幼い竜たちが鳴き声を上げた。

「えっ?僕たちに任せろだって?」

「きゅい」「ギョ」「グル」

次の瞬間、三匹の竜たちが巨大化する。彼らは乗れといった風に、自分たちの母親の前で頭を下げた。

「キミたち、おっきくなったね。これなら戦車でも蹴散らせるかも」

「みんな、太郎さんを助けたいのね」

「わかりましたわ。タロウ様の救出はわたくしたち三人で行いましょう」

こうして、シャングリラ軍の初出動である太郎救出作戦が幕を開けたのだった。


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