異世界管理局
前作『偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける』の異世界管理局がでてきます
裏国会
スクリーンには、自衛隊とテロリスト太郎一味との戦闘の様子が映し出されていた。
「まさか、自衛隊でも対抗できないなんて……」
映像をみた国の幹部たちは、ショックに言葉を失う。
「あれからボートによる上陸作戦も決行しましたが、テロリストが張った斥力バリアーを通り抜けることができませんでした」
機械式の小型艇はすべて電気回路が焼け切れて使用できなくなっていたので、仕方なくゴムボートを人力で漕いで島への上陸を果たそうとしたが、太郎が張った斥力バリアーに撥ね返されてしまった。
「島を封鎖して籠城戦を仕掛けているのですが、やつらは食料も水も一向に困った様子が無くて……むしろ、海上で動けなくなっている艦艇の方が補給もままならず飢えている始末です」
画面には、むなしくヘリコプターで食料や水を受取る艦艇が映し出されていた。乗っている乗組員たちは、まともに食事もできずにやつれている。
「こうなったら、少人数で侵入して重要人物たちを暗殺するしかない。自衛隊にはあるではないか。こういう事態に対抗できる人材が」
岸本総理の言葉に、防衛庁長官が気の乗らない様子で答えた。
「異世界管理局ですか……だが、あそこのメンバーは癖が強い。果たして我々のいうことをおとなしく聞くでしょうか。それに彼らの存在は国の最終兵器として、絶対に秘匿されるべきものです」
「今はそんなことをいっている場合ではない。このまま奴に好き放題暴れられると、日本そのものの権威が保てず、崩壊することにもなりかねない」
総理の言葉に、その場にいる者全員が頷く。
「異世界管理局に所属するものは、全員が異能を身に着けていると聞く。奴の不可解な力にきっと対抗できるはずだ」
「ううむ……わかりました。……説得してみましょう」
しぶしぶ防衛庁長官は受け入れるのだった。
異世界管理局
冷たい顔をした自衛隊の制服をきた男女が、一人の若い男で人体実験している。男の方は坊主刈りに髭を生やした中年男で、女の方は白衣を着た20代後半の美女だった。
「くそっ。俺をここから出せ」
その若い男は、カプセルの中で暴れて身もだえしていた。
「お、お前たちは何者だ!」
「私もお前と同じ異世界帰りさ。異世界管理局所属、土屋鋼一尉だ」
「同じく水走雫二尉よ。よろしくね」
二人は自己紹介すると、男が入れられているカプセルのスイッチを押した。
「さて、あまり期待はできそうにないが、お前が異世界で身に着けた力を解析させてもらおう」
その言葉と共に、男の全身にすさまじい電気ショックが襲い掛かる。
「ギャアアアアア!」
「駄目ですね。彼の異世界で身に着けた特殊能力―いわゆる『魔法』はただ炎を操るだけのものみたいです」
「そうか。もっと変わった能力を持っているものと思っていたけどな。炎を操る程度の帰還者はいくらでもいる。今回はハズレだったか」
土屋は、あてが外れたというふうにがっかりした顔になった。
「ですが、『勇者レベル30』を超えているので、その体力や免疫力は常人の数倍を保っているようです。そのせいで麻薬漬けになっていても、命を保てているのでしょう」
「そうか。それなら実験動物として役にたってもらおう」
土屋の顔に冷笑が浮かぶ。彼らは異世界に一度召喚されて異能を身に着けて戻ってきた者たちである。
帰還後に日本国政府に捕獲され、元の戸籍と経歴を抹消された上に防衛庁所属の異世界管理局に囚われていた。
従順なものは自衛官としての身分を与えられるが、身に着けた異能で犯罪を犯したり、反抗したりしたものは、こうして人体実験の対象とされ、能力をしぼりとられた上で始末される。
今回人体実験を施されている少年も、異世界帰りの異能をもって街で暴れたために捕らえられたのだった。
彼らのような帰還者だけではなく、他にも異世界からの移住者たちも所属している。
「茨木曹長。後は任せた」
「はっ」
二人を敬礼して見送る男は、二本の角をもつ鬼族からの出向者だった。
実験を終了させてオフィスに戻った二人は、防衛庁長官に呼び出される。
「長官、何か御用で?」
「実は、あのテロリスト山田太郎を始末するために、君たちの力を借りたい」
長官はそう告げる。自分の部下に対して、まるで恐れを感じているかのように丁寧な対応だった。
「ほう、我々に奴を始末しろと。ですが、我々がみたところ、山田太郎はおそらく勇者レベル90を超えているであろうカンスト級の化け物」
「しかも、超レアな異能である「空間魔法」の使い手です。だから今まで捕らえることができず、放置していたのです。敵対していたら我々まで被害を被りますからね」
そういってしぶる二人に、長官は額に汗をかきながら機嫌をとるように笑顔を向けた。
「そ、そこをなんとかしてほしい。奴を放置していれば、いずれ日本が崩壊しかねないのだ。すでに裏ではその悪影響がではじめている」
長官は、長年裏の世界で政府に協力してきた鬼族が、太郎に従わされている事を語った。
「なるほど……鬼我原を征服して、鬼族を従えたのか」
「ふふっ。まさに英雄ね。懐かしいわ。異世界にいたころは、魔族の国を征服して世界を救った英雄ともてはやされたこともあったな……今はただの公務員だけど」
二人の顔に憧憬と懐旧の表情が浮かぶのを見て、長官は慌てた。
「や、奴は日本の法律に従わないテロリストだ。それに、日本政府は現代社会になじめない君たちみたいな異世界帰りの異端者を保護して……」
何かわめこうとした長官を、土屋は手をあげて制した。
「わかっている。私たちももう大人だ。いつまでも子どものような英雄願望など持ち合わせてないさ。ちゃんと身分はわきまえている」
土屋の言葉に、長官はほっとする。
「そ、そうか。大人の対応をしてくれて感謝する。そういえば、君の部下にも鬼族がいたな。たしか茨木曹長とかいう。拘束して地下牢にいれないで大丈夫なのか?」
「茨木曹長は異世界管理局に忠誠を誓っている。仲間を疑うような真似はやめてもらおう。彼を排除して、もし鬼族の完全な日本政府からの離反を招いたら、どう責任とるつもりだ?」
土屋がギロリと睨みつけると、長官はごまかすような笑みをうかべた。
「そ、そうか。わかった。信用しよう。頼むぞ。あの法も理もわきまえぬ無法者に、正義の鉄槌を下してくれ」
そういうと、長官はそそくさと立ち去った。
残された男女の顔に、皮肉そうな笑みが浮かぶ。
「正義の鉄槌ときたか」
「ふふ。山田太郎がテロリストになったのは、彼が無力だった一般人時代に周囲から与えられた理不尽のせいでしょうに。今更正義とは、勝手なものよね。私だって向こうに残っていたら、今頃英雄として貴族に……」
なにかつぶやきそうになった水走を、土屋が止める。
「よせ。我々は異世界に残るという選択肢を選ばずに、日本に戻ってきた。そうであれば、日本社会で我慢して生きていくしかないんだ」
「……わかったわ」
不満そうな水走だったが、土屋に諭されて口を閉ざすのだった。
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